はじめに:「国策に売りなし」

株式投資の世界には、「国策に売りなし」という格言がある。

政府が国を挙げて推進する分野には、予算がつき、規制が緩和され、民間の投資が呼び込まれる。政策の風を背に受ける企業の株は、中長期的に上昇しやすい。

2025年10月に発足した高市早苗政権は、この格言を地で行くような経済政策を展開している。「責任ある積極財政」を掲げ、総額21.3兆円の経済対策を閣議決定。「日本成長戦略本部」を立ち上げ、17の戦略分野を設定した。

2025年12月時点で内閣支持率は76%と、近年の政権としては異例の高水準を維持している。衆議院選挙では与党が316議席を獲得し、安定した政権基盤も確保した。

この記事では、高市政権の成長戦略の全体像を整理し、個人投資家として知っておくべきポイントを解説する。

「責任ある積極財政」とは何か

まず、高市政権の経済政策の基本的な考え方を理解しよう。

従来の日本政府の財政運営は、「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化」を重視してきた。簡単に言えば、「借金を増やさないこと」を最優先にする考え方だ。

高市首相はこの方針を転換し、「増税に頼らず、経済成長によって税収を増やす」というアプローチを採用している。

高市首相の公式サイトでは、「危機管理投資」と「成長投資」によって雇用と所得を増やし、消費マインドを改善し、事業収益が上がることで、「税率を上げずとも税収の増加に向かう『強い経済』を実現する」と明記されている。

この考え方は、アベノミクスと共通する部分もあるが、三井住友DSアセットマネジメントの分析が指摘するように、大きな違いもある。アベノミクスが「金融緩和」を軸にしたのに対し、高市政権は「産業政策」、つまり政府が主導して特定の産業に集中投資する色合いが強いのが特徴だ。

17の戦略分野:日本の成長を賭けるテーマ

2025年11月に始動した「日本成長戦略本部」は、17の重点投資対象分野を設定した。これらを大きく4つのカテゴリーに整理してみよう。

カテゴリー①:テクノロジー・デジタル基盤

  • AI(人工知能)
  • 半導体
  • 量子技術
  • 情報通信ネットワーク(5G/6G、光通信)

AIと半導体は表裏一体だ。AI開発にはAIチップ・高性能半導体が必要であり、半導体の設計にはAIが使われる。この分野は政府が「デジタル主権」の確立に直結すると位置づけており、2025年度補正予算では「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づく大規模な官民投資が決定している。

TSMCの熊本工場、Rapidusの北海道工場など、すでに数兆円規模のプロジェクトが動いているが、これはまだ始まりに過ぎない。

カテゴリー②:安全保障・防衛

  • 防衛装備・調達産業
  • 宇宙
  • 海洋
  • サイバーセキュリティ

防衛費のGDP比2%目標の達成が前倒しで進められており、歳出が大幅に拡大している。防衛装備の国産化や次世代戦闘機の共同開発、無人機・ドローン技術の軍民両用化など、この分野は今後数年にわたる長期の投資テーマとなる。

カテゴリー③:エネルギー・資源

  • エネルギー(原発再稼働+再エネ)
  • 次世代電池
  • 核融合
  • レアアース・鉱物資源

原発再稼働と再生可能エネルギー投資の二正面戦略を展開。次世代電池(全固体電池など)や核融合技術にも国費を投入している。エネルギーの自立性を高めることは、経済安全保障の根幹だ。

カテゴリー④:産業・社会基盤

  • 造船業(官民1兆円規模の投資で再生)
  • フードテック・農業
  • バイオ・医療
  • クリエイティブ産業(アニメ・ゲーム・IP)
  • 国土強靱化・インフラ

造船業への大規模投資は意外に見えるかもしれないが、海洋安全保障と密接に関連している。また、アニメ・ゲームなどのクリエイティブ産業をIP(知的財産)ビジネスとして成長産業化する方針は、日本の「ソフトパワー」を活かした外貨獲得戦略だ。

予算規模:本気度を数字で見る

言葉だけではなく、実際の数字を確認しよう。

補助金ポータルの分析によれば、2025年度補正予算の一般会計総額は約18.3兆円。このうち「危機管理投資・成長投資」として約6.4兆円が計上されている。

減税分を含めた経済対策の総額は21.3兆円。これは岸田政権時代の経済対策と比較しても大規模であり、高市政権の「積極財政」が掛け声だけではないことを示している。

さらに重要なのは、これが複数年度にわたるロードマップとして設計されている点だ。単年度の「バラマキ」ではなく、中期的な産業政策として企業が投資判断をしやすい枠組みを作ろうとしている。

アベノミクスとの違い

投資家として押さえておくべき重要な違いがある。

アベノミクスは、日銀の異次元緩和(金融政策)が主役だった。円安と株高をもたらしたが、実体経済の構造改革は限定的だったという評価がある。

高市政権の政策は、財政政策と産業政策が主役だ。金融政策は日銀に任せつつ、政府は「どの産業に、どのくらいの規模で、どのくらいの期間」投資するかを明示している。

EBCの分析は、高市政権がアベノミクスよりも「産業政策色が強い」と評価し、「政府主導の技術育成やサプライチェーン強化に重点を置いている」と述べている。

これは投資家にとって重要な情報だ。なぜなら、お金がどこに向かうかが、より予測しやすくなるからだ。

リスクも理解する

公平を期すために、リスクについても触れておく。

① 財政規律への懸念

日本の政府債務残高はGDP比で260%を超えており、先進国で最も高い水準にある。ここからさらに借金を増やして投資することに対して、一部の市場参加者は懸念を示している。長期金利の上昇圧力や国債市場の不安定化は、常に注意が必要だ。

② 「ワイズ・スペンディング」の実行力

大規模な財政支出が本当に成長につながるかは、使い方次第だ。「賢い支出」が実現できなければ、借金だけが残るリスクがある。

③ 地政学リスク

米中対立の激化、台湾有事リスク、トランプ政権の通商政策。これらの外部要因が、日本経済の見通しを大きく左右する可能性がある。

個人投資家にとっての示唆

では、個人投資家としてこの政策環境をどう活かすべきだろうか。

① 「国策銘柄」を意識する

17分野に関連する企業は、政府の予算と規制の追い風を受ける。特にAI・半導体、防衛、エネルギー関連は、政策の恩恵が最も直接的に及ぶ分野だ。

② TOPIXや日経平均でも恩恵を受けられる

個別銘柄の選定が難しければ、TOPIX連動型や日経平均連動型のETFや投資信託を通じて、日本株全体の上昇を取り込むことができる。成長戦略が機能すれば、市場全体が底上げされる。

③ 中期の視点を持つ

高市政権の成長戦略は「複数年度」の設計だ。短期的な株価の上下に一喜一憂するのではなく、2〜3年の視点でポジションを持つことが重要だ。

まとめ:「強い経済」は投資家にとってもチャンス

高市政権の経済政策を一言でまとめれば、「国家主導の成長投資で日本を強くする」だ。

  • 21.3兆円の経済対策
  • 17の戦略分野に集中投資
  • 「増税なき成長」を目指す責任ある積極財政
  • 支持率76%と安定した政治基盤
  • 複数年度のロードマップで企業の投資を後押し

政策が完璧である保証はない。しかし、政治的な安定性、明確な成長戦略、そしてそれを裏付ける具体的な予算。これらが揃っている今の日本は、投資先としての条件がここ数十年で最も整っていると言えるのではないだろうか。


※本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではない。投資に関する最終的な判断は、読者自身の責任で行っていただきたい。