予算が通った。カネはどこへ流れるか

4月7日、2026年度当初予算が参院本会議で成立した。一般会計の総額は過去最大の122.3兆円。年度内成立は叶わず、11年ぶりの暫定予算を経ての成立だった。

2月の前回記事で、高市政権の17分野・成長戦略の全体像を整理した。あの時点では予算案は国会に提出されたばかりだった。あれから2か月弱。予算は成立し、3月10日の第3回日本成長戦略会議では17分野が61製品・技術に細分化され、27項目が先行検討に入った

メディアは「高市銘柄」に沸いている。ザイは17分野別の銘柄リストを掲載し日経マネーは「サナエノミクスでもうかる株」を特集した。半導体装置の東京エレクトロン、防衛の三菱重工業、電子部品の村田製作所。いずれも「国策に売りなし」の筆頭として名が挙がる。

だが、122.3兆円の中身を開いて、各社の決算書と突き合わせると、違う景色が見えてくる。

122兆円の内訳:カネの行き先を確認する

歳出の構成を確認する。第一ライフ経済研究所の分析が参考になる。

前年度からの増加額7.1兆円のうち、国債費(利払い・償還)の増加が3.1兆円、地方交付税交付金の増加が2.0兆円。この二つで増加分の7割を占める。国債費の膨張は想定金利を2.0%から3.0%に引き上げたことによるもので、政策判断ではなく金利環境の反映だ。地方交付税は税収増に連動する自動増。つまり、増加分の大半は「積極財政」の意思決定とは関係がない。

歳出全体の構成比を見ると、構図はこうなる。財務省の予算書によれば、社会保障関係費が39.1兆円で全体の32%。国債費が31.3兆円で25.6%。地方交付税交付金等が19.9兆円で16.3%。この三つだけで歳出の74%に達する。

では「成長投資」はどこにあるのか。AI・半導体関連の1兆2390億円はエネルギー対策特別会計に計上されており、一般会計の122.3兆円には含まれない。防衛費は9兆円。経済産業省の関連予算は3兆693億円。これらを合わせても、歳出全体の1割程度にとどまる。

予算の構造を一言で要約すれば、こうだ。借金の利払いと高齢者の医療費が予算の6割を食い、残りを防衛費と成長投資が分け合っている。

「高市銘柄」の決算を読む

市場で「高市銘柄」の筆頭に挙がる3社の決算書を開き、日本政府の予算がどれだけ業績を動かしているかを確認する。

三菱重工業(7011):エナジーが牽引、防衛は利益率で効く

26年3月期の通期売上高見通しは4兆8000億円。売上の主柱はエナジー事業だ。北米の電力需要を背景にガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)の受注が急伸し、エナジーの売上高は2兆円、受注高は3兆2000億円に上方修正された

航空・防衛・宇宙セグメントの売上高は年間約5000億円で、全体の10%前後にとどまる。ただし、受注残高12.2兆円のうち防衛・宇宙は約20%を占め、利益率もエナジーより高い。株価の再評価が始まった起点は2022年12月の防衛力整備計画の閣議決定であり、GTCCの受注急伸はそのあとに来た。防衛を軽視すべきではない。

とはいえ、直近の上方修正を動かしたのはGTCCだ。25年4-9月期の当期利益は1149億円で過去最高を更新したが、上方修正の主因はGTCCの受注伸長だった。同社の伊藤社長は決算説明会で米国市場を「極めて重要な市場」と位置づけている。防衛費9兆円の恩恵は確かにあるが、株価を日々動かしているのは北米のガスタービン需要だ。

東京エレクトロン(8035):顧客の大半は海外

東京エレクトロンの売上高の大半は海外向けだ。顧客はTSMC、サムスン、インテル、SKハイニックス。日本政府のAI・半導体予算1兆2390億円は、TSMCの熊本工場やラピダスへの補助金として支出され、それが設備投資となって装置メーカーに発注が回る。だが、TSMCの熊本工場は1拠点に過ぎない。半導体製造装置の業界団体SEMIの推計によれば世界の半導体設備投資は年間2000億ドル規模に達しており、日本政府の補助金が占める割合は数%にとどまる。

東京エレクトロンの株価は、グローバルな半導体設備投資サイクルの関数である。日本の産業政策は追い風だが、主たる変数ではない。

村田製作所(6981):世界の基板に載る部品

村田の26年3月期の売上高見通しは1兆8000億円。コンデンサ事業は前年同期比10.1%増と好調だが、成長を支えているのはAIサーバー向けの高容量積層セラミックコンデンサー(MLCC)だ。中島社長は「短期的に景気が減速しても、データセンターや生成AIサーバーの市場は安定して成長する」と述べ、設備投資を前年比5割増の2700億円に引き上げた。28年3月期に売上高2兆円を目指す。

村田の業績を動かすのは、世界のスマートフォン出荷台数(同社見通し12.1億台)とハイパースケーラーのサーバー投資だ。防衛装備のセンサーやインフラ向け部品など、国内政策と無縁とは言い切れない分野も手がけているが、決算書のセグメント開示からは政策関連の寄与を分離できない。

三社に共通する構図

三社とも、業績を左右する変数は日本政府の予算ではなくグローバルな需要サイクルだ。三菱重工は北米のガスタービン、東京エレクトロンは世界の半導体設備投資、村田はAIサーバーとスマートフォン。いずれも「高市銘柄」のラベルが示唆するほど、国内政策に依存していない。決算書はそう言っている。

最大の受益者は誰か

ここで問いを変える。122.3兆円のうち、最も確実に、最も大きな金額が流れる先はどこか。

国債費(31.3兆円)に目を向ける。ただし中身を分ける必要がある。国債費は利払い費と債務償還費の合計だ。債務償還費は元本の返済であり、保有者の「収益」にはならない。金融機関の収益に直結するのは利払い費のほうで、想定金利3.0%に基づく2026年度の利払い費は約10.5兆円と見積もられている。前年度から2.5兆円の増加であり、防衛費9兆円を上回る。

では、この利払いは誰に流れるのか。ここで留保がいる。日銀が量的緩和を通じて国債発行残高の過半を保有しており、利払いの大部分はいったん日銀に渡る。銀行のJGB保有残高は2012年以降大幅に減少した。もっとも、日銀が国債の買い入れを縮小し保有残高を減らす局面に入れば、銀行と生保が再び国債を吸収せざるを得ない。金利上昇と国債増発が同時に進む環境で、民間金融機関の国債保有が増えていく構図は、中期的には避けがたい。

だが、銀行にとっての本丸は国債の利息収入ではない。金利上昇の恩恵は本業の貸出で効く。

銀行と生保:金利の恩恵はどこに効くか

銀行は預金を低利で集め、貸出に回す。長期金利が上昇すれば貸出金利も連動して上がるが、預金金利の上昇は遅れる。この差、すなわち預貸金利ざやが広がるほど銀行の利ざやは厚くなる。メガバンクの貸出残高は合計で数百兆円に達するから、利ざやが0.1%動くだけで利益への影響は兆円単位になる。この力学については「金利が変えるメガバンクの利益構造」で詳しく論じた。

大手生命保険会社(日本生命、第一生命、明治安田)は異なる経路で恩恵を受ける。超長期国債を大量に保有し、資産と負債の満期構成を合わせている。金利が上がれば新規購入債券の利回りが改善し、保険契約の逆ざやが解消に向かう。生保のバリュエーションについては「生保のEVを読む」を参照されたい。

まとめると、積極財政が金利を押し上げるルートは二つある。一つは国債増発による直接的な金利上昇圧力。もう一つは財政拡張が名目成長とインフレ期待を高め、日銀の利上げを正当化すること。いずれのルートでも、預貸スプレッドが広がる銀行と、運用利回りが改善する生保が構造的な受益者になる。

防衛費9兆円が三菱重工にもたらす売上は約5000億円。AI・半導体予算1.24兆円が東京エレクトロンに回る金額は、世界の設備投資サイクルのなかに埋もれる。だが金利上昇を通じて金融セクター全体に流れ込む利益の増分は、どちらの数字より大きい。

逆説:積極財政は金融セクターを太らせる

この構図には逆説がある。

高市政権は「増税なき成長」を掲げ、成長投資に予算を振り向けると宣言した。AI・半導体、防衛、造船、レアアース。17分野の成長戦略は、日本の産業構造を変革し、「強い経済」を実現するためのものだとされる。

公平を期せば、歳入サイドにも触れるべきだ。2026年度の税収見通しは過去最高の83.7兆円で、名目成長と企業業績の好調が反映されている。高市政権が主張する「成長による税収増」は現に起きている。だが歳出の伸びはそれを上回り、新規国債発行額は29.6兆円。税収が増えても借金は減っていない。

成長投資に回る金額は全体の1割程度。歳出増の大半は国債費と社会保障費の自然増で、「積極財政」の意思決定とは関係のない構造的要因が占める。これは日本に限った話ではない。先進国の政府予算はどこも義務的経費と利払いに圧迫されている。だが金利上昇局面では利払い費の膨張が速い。

「新しい日本」を育てるための借金が、金利上昇を通じて「古い日本」(銀行と生保)の収益を押し上げる。これが122兆円予算の構造的な帰結だ。

株式市場は「高市銘柄」を物色し、17分野の関連企業を買う。だが、予算が金利環境を通じて最も確実に富ませるのは金融セクターだ。意図された帰結ではないにせよ、結果としてメガバンクと大手生保こそが「究極の高市銘柄」になっている。そしてこの関係は、積極財政が続く限り、つまり国債が発行され続ける限り、構造的に持続する。

それでも予算は動く

17分野の成長戦略が無意味だと主張しているわけではない。AI・半導体の年間1兆円超の投入、南鳥島のレアアース試掘、防衛費の拡充。中長期で日本の産業基盤を変える芽はある。

だが122兆円の最大の受け皿は、借金の利払いを通じて収益が改善する金融セクターであり、この構造は予算規模が拡大し金利が上昇する環境が続く限り変わらない。

「高市銘柄」という言葉自体が、政治と投資の境界を曖昧にしている。だが決算短信には政党名は載っていない。首相が誰であれ、三菱重工のガスタービンは回り、村田のMLCCは基板に載る。投票用紙と証券口座を混同する投資家は、どちらでも判断を誤る。

6月のロードマップ公表と夏の骨太の方針が次の節目になる。だがその先に待っているのは、成長投資の果実が実る前に膨らみ続ける利払いの重荷だろう。「責任ある積極財政」の責任が問われるのは、これからだ。


※本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではない。投資に関する最終的な判断は、読者自身の責任で行っていただきたい。