前回、99行の地銀が年間91万人の人口減少の中でどう追い詰められているかを書いた。預金は流出し、貸出先は縮み、不動産依存が強まり、非利息収入は実質マイナスだった。
では誰が、どうやって、この状況を動かそうとしているのか。
開いた窓
2020年、公正取引委員会は同一県内の地銀合併に対する独占禁止法上の障壁を事実上撤廃した。10年間の時限措置だ。2030年に閉まる。
2021年には銀行法が改正され、同一県内の合併がさらに容易になった。金融庁は地銀の経営陣に対して「M&Aは主要な選択肢であるべきだ」と公に述べている。
そして2026年2月27日、政府は金融機能強化法の改正案を閣議決定した。合併時の補助金上限が30億円から50億円に引き上げられた。システム統合向けの補助金も新設された。片山さつき金融相は閣議後の会見で「地域金融機関が地域経済に貢献する役割を十分に発揮していくための環境整備」と説明した。
片山氏の経歴は、この文脈で意味を持つ。1982年に大蔵省入省。1990年代後半の銀行危機では救済策の策定に携わった。30年前に銀行セクターの危機処理をした人物が、いま同じ省庁で同じセクターを担当している。ただし今回の敵は不良債権ではなく、人口動態だ。
片山氏は12月のインタビューで「地方の金融機関が地域を支える融資をしなければ、地方に未来はなくなる」と語った。
五層の補助金
再編を後押ししているのは規制緩和だけではない。政府と日銀が複数の経済的インセンティブを重ねている。
合併補助金は30億円から50億円に引き上げられた。同じ法改正で、合併で最もコストがかかるシステム統合に対する補助金も新設された。日銀も動いている。2020年に再編やM&Aを行った地銀に対し、当座預金の付利を0.1%上乗せする2年間の制度を導入した。公取委の独禁法免除は同一県内合併の審査コストを実質ゼロにしている。規制上の補助金と言ってよい。さらに会計上の恩恵もある。PBR1倍未満の銀行を買収すると、純資産と取得価格の差額がネガティブ・グッドウィルとして利益計上され、税制上も有利に働く。
政府、日銀、規制当局、会計基準。五つの力が同じ方向に押している。
動き始めた案件
再編は加速している。日本総研の大嶋氏のまとめによれば、直近の動きだけでも以下がある。
2025年1月、愛知銀行と中京銀行が合併し「あいち銀行」が発足。同月、青森銀行とみちのく銀行が合併し「青森みちのく銀行」が誕生した。同一県内の第一地銀合併としては初めてで、県内の融資シェアは約80%に達した。人口が年1.72%減っている県で、だ。
2026年1月には八十二銀行と長野銀行が合併。5月に福井銀行と福邦銀行。2027年1月にはフィデアホールディングス傘下の荘内銀行(山形)と北都銀行(秋田)が合併して「フィデア銀行」になる。県をまたぐ広域再編だ。
第四北越フィナンシャルグループ(新潟)と群馬銀行は2027年4月を目途に経営統合を目指す基本合意を締結した。
千葉では千葉銀行が千葉興業銀行の20%を取得し、持株会社の設立に向けて動いている。静岡銀行、山梨中央銀行、八十二銀行の3行による包括業務提携も進んでいる。
SBI証券の鮫島氏は「再編を考えていない地銀の社長は一人もいないと思う」と言う。

アクティビストが来ている
案件を動かしているのは規制当局だけではない。
有明キャピタルは、元ゴールドマン・サックスのアナリストである田中勝紀氏が運営するヘッジファンドで、10行以上の地銀に出資している。泉州池田ホールディングス、滋賀銀行に保有が確認されている。2024年10月には愛知フィナンシャルグループの5.06%の株式取得を開示した。名古屋はトヨタのお膝元であり、地銀統合の憶測が何年も燻ってきた地域だ。
田中氏は20兆円の資産規模を「地銀の生存ライン」と呼ぶ。
SBIホールディングスの北尾吉孝CEOはさらに直接的だ。「地銀をグループに組み入れていく」と公言し、既に9行に出資している。
金融庁は有明キャピタルの動きを注視しており、地銀の経営陣に「こうした投資家と建設的な対話を行うべきだ」と伝えている。規制当局がアクティビストの参入を歓迎しているのだ。

歴史にない状況
歴史に正確な前例はない。
米国では1984年に14,496行あったコミュニティバンクが約4,500行に減った。40年で70%の減少。ただし同じ期間に人口は1億人増えている。銀行が消えたのは、規制緩和と規模の経済が理由であって、顧客がいなくなったわけではない。
スペインでは2009年に45あった貯蓄銀行(カハ)が2013年には18の商業銀行に再編された。不動産バブル崩壊が引き金だった。7行の弱いカハを合併して作ったバンキアは2012年に190億ユーロで国有化された。弱い銀行を合わせても強い銀行にはならなかった。
日本の地銀が直面しているのは、規制の変化と不動産リスクと人口減少が同時に進行している状態だ。しかも人口減少だけは政策で止められない。
ウェリントン・マネジメントは「公取委の独禁法免除は2030年に期限を迎える。時計は動いている。仲間が先に動いている中で、取り残されたい銀行はいない」と指摘する。
買う側の論理
ここまでの話は危機の構図だ。だが再編には買う側の論理もある。これについては次回、数字を使って掘り下げる。
PBR0.3倍で取引されている銀行は、価値の罠か、処分価格の預金フランチャイズか。その答えは、買い手が現れるかどうかで変わる。
買い手はもう動いている。
本記事は公開情報に基づく筆者個人の分析メモであり、投資助言ではない。投資判断は自身の責任で行うこと。