本稿は2部構成の第2部。第1部は2026年6月のコード改訂と126兆円の現預金問題を扱った。


第1部は改訂ガバナンス・コードの中身を論じた。企業に現預金の有効活用を実証するよう求める内容だ。本稿は、従わない企業に何が起きるかを追う。

圧力は二つある。一つは構造的なもの、2028年7月までに約500社をTOPIXから除外する複数年にわたるインデックス再編だ。もう一つは行動的なもの、2025年の株主総会シーズンに過去最多の399件の株主提案を提出し、改訂コード施行直後の2026年シーズンに備えるアクティビストと機関投資家の動きである。

この二つが圧力を形成する。コードを無視する企業は「遵守か説明か」の枠組みの中で市場の目にさらされる。指数を無視する企業はTOPIX連動の大規模パッシブ資金による機械的な売りに直面する。両方を無視する企業は取締役選任の否決に直面する。

TOPIXの再編

TOPIXは日経平均ではない。広範な市場ベンチマークであり、歴史的に旧東証一部に上場するすべての内国普通株が自動的に構成銘柄となった。ピーク時には2200銘柄超。その結果、規模が小さすぎ、流動性が乏しすぎ、ガバナンスが脆弱すぎて機関投資家の保有を正当化できない銘柄を数百含む、薄く無選別な指数が生まれた。

改革は2段階で進められている。

第1段階は2022年から2025年1月まで実施された。浮動株調整後時価総額100億円未満の企業は指数ウェイトが段階的にゼロに引き下げられた。構成銘柄数は2200超から約1700に減少した。指数全体の特性への影響は軽微だった(除外された銘柄は小さすぎた)が、シグナルの意味は大きかった。TOPIX構成銘柄の地位が自動的なものから条件付きのものに初めて変わったのだ。

第2段階は2026年10月に始まり、2028年7月まで続く。ここで再編は実質的な意味を帯びる。選定基準は浮動株調整後時価総額と年間売買回転率に移行する。プライム、スタンダード、グロースの全市場が対象となるが、水準は高い。JPX総研は構成銘柄数が約1200に減少すると見込んでいる

仕組みが重要だ。最初の定期入替(基準日:2026年8月最終営業日)で除外される企業は、2026年10月から2028年7月にかけて四半期ごとの8段階でウェイトが引き下げられる。移行係数が100%から12.5%ずつ0%に漸減する。一気に落ちるのではなく、2年かけてじわじわとウェイトが削られていく。TOPIX連動のパッシブファンドがこれらの銘柄を機械的に売却していく。

境界線上の企業にとってインセンティブは明確だ。浮動株を増やすか(政策保有株の解消や大株主に売却を促すか)、流動性を改善するか、それともTOPIX連動のパッシブファンドが体系的に株を売るのを傍観するか。大和総研は、境界線付近の企業が指数残留のために政策保有株の処分と株主還元策を前倒しすると予想している。

上場廃止の流れ

TOPIXの再編とは別に、だが同じ圧力を強化する形で、東証の上場維持基準の経過措置が2025年3月に終了した。旧制度下では、2022年以降の厳格化された上場基準を満たさない企業に猶予期間と改善計画が認められていた。その猶予は終わった。

基準未達の企業が辿るタイムラインは厳しい。期末基準日で上場維持基準に適合しない場合、1年間の改善期間(売買高基準は6カ月)に入る。改善期間終了後もなお未達であれば「監理銘柄」に指定され、次いで「整理銘柄」、そして上場廃止(監理銘柄指定から通常6カ月以内)となる。廃止後の代替取引市場は整備されていない。

2024年には94社が上場廃止となった。上場企業の総数が純減した初めての年だった。2025年はさらに加速し、東証の山道裕己CEOはブルームバーグに対し125社が廃止、2026年もすでに16社が発表済みと明かした。改善計画が2026年3月1日以降の最初の基準日を超える企業は、東証の公開監視リストに掲載されており、計画終了時に基準未達であれば監理銘柄指定に直面する。

TOPIX再編と上場廃止制度の複合効果は、市場が自ら縮小し、質で選別される方向に動いているということだ。忍耐強い投資家にとって、これは欠陥ではなく機能である。除外される銘柄はまさに全体のROEを押し下げ、資本リターンを希薄化させてきた銘柄だ。小さくなった高品質のTOPIXは、残る全員に恩恵をもたらす。

株主総会という戦場

二つ目の圧力は機械ではなく人間が加える。

2025年6月の株主総会シーズンでは、114社に対し399件の株主提案が提出された。4年連続の過去最高だ。うち146件はアクティビストを含む機関投資家からのものだった。提案の性格も変わりつつある。増配や特別自社株買いといったバランスシート関連の要求は引き続き多いが、取締役会の構成変更、取締役選任、不採算事業からの撤退要求といった経営体制そのものに踏み込む提案が勢いを増している。

直近2シーズンの3つの事例が、その刃の鋭さを示す。

太陽ホールディングス。 オアシス・マネジメントが社長の解任を提案した。太陽HDの筆頭株主であり取引先でもあるDICが、総会前に社長再任に反対する意向を公表した。事業パートナーがこれほど公然と造反するのは極めて異例だ。社長再任の賛成率は46.09%にとどまり否決された。オアシスの解任議案は49.90%の支持を得た。現職の社長が株主投票で退任し、しかも自社の筆頭株主が反対票を投じたのである。

ダイドーリミテッド。 国内アクティビストのストラテジックキャピタルが、11期連続で営業赤字を計上していた企業に3名の取締役候補を擁立し、いずれも過半数の支持を得て選任された。新取締役の就任後、ダイドーは増配と自己株式取得の計画を公表した。アクティビストは議決で勝っただけでなく、議決が企業を変えた。

フジ・メディア・ホールディングス(FMH)。 経営陣は「相談役」制度の廃止を提案した。退任した経営幹部が説明責任を負わないまま影響力を保持する旧来の仕組みだ。株主はこれを承認した。2日後、FMHは元社長を報酬付きの新設「アドバイザー」に再任したと開示した。「相談役」の肩書は消えた。実態は残った。グラスルイスは、FMHの改革が真の変革なのか既存慣行の看板替えにすぎないのか疑問を呈した

3事例に共通するパターンがある。アクティビストはもはや経営陣に無視される存在ではない。国内の機関投資家を含む機関株主がアクティビストとともに経営陣に反対票を投じている。抵抗の社会的許容範囲は狭まった。

自社株買いも並行して加速している。いちよし証券によれば、2024年の自社株買い決議額は前年の9.6兆円からほぼ倍増し18.0兆円に達した。2025年度も12月末時点で14.2兆円に達し、5年連続の過去最高更新が見込まれている。

自社株買い決議額の推移

FTの問題

2026年1月、フィナンシャル・タイムズが現局面を端的に言い表す見出しを打った。「日本のアクティビスト、新しい問題に直面——成功」

的確な観察だ。アクティビズムが文化的タブーだった頃、アクティビストの課題は誰にも聞いてもらえないことだった。機関投資家がアクティビスト提案を日常的に支持し、経営陣が建設的に対話し、株主投票が実際に経営者を解任するようになった今、課題は変わった。「アクティビズムは日本で機能するか」ではなく「機能した後、企業と市場に何が起きるか」が問われている。

今のところ答えは、好循環が加速しているということだ。アクティビスト圧力が自社株買いと政策保有株の処分を誘発する。処分は浮動株を増やし、TOPIX適格性を改善する。自社株買いは純資産を圧縮し、ROEを引き上げる。ROEの向上は海外機関投資家の資金を呼び込む。海外資金がガバナンスへの期待をさらに高める。この好循環が続いている。

2026年6月の株主総会シーズンが試すもの

2026年の株主総会シーズン(3月期決算企業が集中する6月下旬)は、改訂コーポレートガバナンス・コードの下で初の総会シーズンとなり、同時に2026年5月1日施行の共同対話の適用除外が有効になった後の初シーズンでもある。いずれの変更も、協調的圧力のハードルを下げる。

2023年・2024年に定型的な資本効率計画を公表しながら具体的成果を示してこなかった企業は、より厳しい聴衆に臨む。改訂コードは現預金の有効活用の実証を求める。スチュワードシップ・コードは投資家に企業への説明責任を追及するよう促す。法的枠組みは共同保有者開示を発動させずに投資家の協調を可能にする。そしてTOPIX再編の最初の銘柄選定は2026年8月のデータを用いる。境界線上の企業にとってハードデッドラインだ。

日本を注視する投資家にとって、2026年6月の株主総会シーズンは、10年をかけて構築された制度的インフラ(2014年のスチュワードシップ・コードから2023年の東証指示、2026年のコード改訂へ)が成果を出すか期待を裏切るかの分岐点だ。実績はこれが機能していることを示唆している。株主提案の4年連続記録更新、株主投票による現職社長の退任、年間20兆円超と見込まれる自社株買い。改革が失速している市場の姿ではない。

6月の確定日が近づくにつれ、コード改訂に関する報道は増えるだろう。日経、FT、ブルームバーグはこれまでの経過をすでに報じている。総会シーズンに入れば、議決権行使の結果やアクティビストの採点が新たな報道の材料になる。

圧力がどこに集中しているか

2026年3月時点で、TOPIX構成銘柄のうちPBR1.0倍未満は約35%。各社の直近四半期決算短信と市場価格に基づく集計だ。JPXが公表する2026年2月のセクター別データでも、プライム市場で銀行、鉄鋼、金属製品など5業種の平均PBRが1.0倍を下回っている。

比率は企業規模で大きく異なる。TOPIX Core30ではほぼすべてがPBR1.0倍超。TOPIX Small 2では約半数が1.0倍割れだ。第1部と本稿で論じたガバナンス改革は、まさにそのロングテールに照準を合わせている。

TOPIX規模別PBR1.0倍割れ比率

PBR1.0倍割れが最も集中するセクターは、銀行(TOPIX上場行の約4分の3がPBR1.0倍未満)、鉄鋼、電気・ガス、金属製品、輸送用機器だ。中堅製造業(化学、機械、自動車部品)はPBR1.0倍割れの絶対数が最も多い。

業種別平均PBR(東証プライム市場)

自分でスクリーニングしたい読者のために。ブルームバーグ、ロイター、TradingView、Yahoo Finance、株探(kabutan.jp)のいずれでもPBRで絞り込める。ROICは手計算が必要になることもある。営業利益(税引き調整後)を投下資本で割り、四半期決算短信から算出する。JPXはTOPIX構成銘柄リストと浮動株データを毎月公表している。

一つ注意がある。2024年末から2025年にかけての大量株式分割が、多くの公開データソースでPBRの計算を壊している。分割調整済みの株価を未調整の簿価で割ると意味のない数値が出る。直近の四半期決算短信で必ず検算してほしい。

本ブログは個別銘柄を挙げない。日本株への関心は尽きないが、コンプライアンス部門はない。スクリーニングは誰でもできる。優位性は定性的なところにある。どの企業が変わりそうか、どのアクティビストが動いているか、どの改善計画に経営陣が無視できない期限が付いているか。

玉露は「煎がきく」お茶とも言われ、2煎目・3煎目になっても豊かな味わいを楽しめるのが特徴。2煎目は70〜80℃がおすすめだ。


本稿は公開情報に基づく筆者個人の見解であり、投資助言ではありません。

— 玉露