政策金利が上がると、企業が折れる。7月に相次いだ地方銀行の損失開示と、大阪の決済代行・全東信の破綻を並べれば、そう読みたくなる。だが、その読みは半分は外れている。日銀は6月に政策金利を1.00%へ引き上げたが、これは1995年以来の高さにすぎず、物価上昇を差し引いた実質の金利はなお大幅なマイナスにある(第一生命経済研究所)。1%の金利それ自体が、借り手を押し潰しているわけではない。変わったのは金利の水準ではなく、その裏で回っていた仕組みのほうである。
数字は、確かに悪化している。2026年上半期の企業倒産は、帝国データバンクの集計で5335件、東京商工リサーチで5346件。前年同期比で6〜7%増え、TDBでは2年連続、TSRでは12年ぶりに5000件を超えた(帝国データバンク、東京商工リサーチ)。だが中身を見ると、金利の話ではない。負債5000万円未満の小規模倒産が全体の62%を占め、主因の8割は販売不振だ。物価高倒産は439件、人手不足倒産は237件、税金滞納倒産は126件と、いずれもそれぞれの集計開始以来の最多を更新した(東京商工リサーチ)。一方で、コロナ期のゼロゼロ融資を受けた先の倒産は157件と、前年から26%減った。コロナ対策という支えの効果は、すでに一巡している。折れているのはコストと人手と需要であって、利払いではない。淘汰の顔ぶれが、コロナの後遺症から、構造的な圧力へと入れ替わりつつある。
では、なぜ今なのか。ゼロ金利と過剰な流動性の時代には、三つのことが同時に起きていた。弱い借り手は借り換えを繰り返して延命でき、運用先に飢えた貸し手は審査を甘くし、埋まらない穴は新しい金が流れ続けるかぎり先送りできた。正常化は、この三つを一つずつ外していく。利上げは借り換えでしのぐ余地を狭め、過剰流動性が引くにつれ、甘い審査も穴の先送りも続かなくなる。2026年1月施行の取適法(中小受託取引適正化法)は、手形やファクタリングで下請に資金繰りの負担を回す経路まで塞いだ(公正取引委員会)。金利は引き金を引いているのではない。むしろ、これまで借り手を支えてきた足場を、一本ずつ抜いている。同じコスト高と人手不足が、支えを失った先で倒産に変わる。
むろん、反論はある。倒産の主因はコスト高と人手不足であって、正常化とは関係ない、レジーム転換というのは後付けの物語だ、と。半分は正しい。引き金はコストと人手だ。だが同じコスト高でも、借り換えと甘い審査と流入が効いていた数年前なら、ここまで倒産には転化しなかった。変わったのは圧力の強さではなく、それを受け止める支えの厚みである。
先月の「測れない淘汰」で、この支えの一つを追った(測れない淘汰)。銀行と手形が退いたあと、中小企業の運転資金は、売掛債権のファクタリングや、将来売上を裏づけにしたファイナンスへ流れた。専用の業法のない、統計にも映りにくい領域である。この層に共通するのは、流入が続くかぎり回るという性質だ。受取債権を先に現金化し、次の受取債権で埋める。流れが速いあいだは、穴は見えない。
その極端が、全東信だった(全東信の破産)。カード債権を早期に現金化する、機能で見ればファクタリングの一種である。20万店の水商売と飲食の与信を肩代わりし、その運転資金を、地元に貸し先のない地方銀行から集めていた。ただし全東信は、純粋な事例ではない。東京商工リサーチの調べでは、少なくとも20年前から粉飾を続け、実質で約605億円の債務超過だったおそれがある。だから「利上げが全東信を潰した」とは書けない。潰したのは自前の穴と、2024年の刑事事件で細った資金の流入だ。それでもこの一件は、パターンを凝縮して見せている。流入で回る信用と、利回りに飢えた地銀と、流れを止める引き金。引き金は金利ではなく、企業ごとに違う。
だから、これを「利上げが日本を壊す」の証拠に使うのは早計だ。政策金利は1%、市場や証券各社がみる着地点も1.5%前後(日経QUICK調査)で、実質金利はなおマイナスにある。いま表に出ているのは、旧レジームへの依存度が最も高く、最も深く隠されていた層である。金利の水準それ自体が、広く効いているのではない。正常化という局面の入り口で、いちばん無理をしていたものから順に、姿を現しているだけだ。連鎖ではなく、企業ごとの引き金による、断続的な露出である。
投資家にとっての含意は、地域銀行に置かれている。正常化は地銀の利ざやを改善する。その筋は正しく、強気の論拠になっている。だが同じ正常化が、これまで利ざやの外で利回りを稼がせてきた域外・業種外の危うい与信を、順に表に出していく。表の利ざや改善と、裏の与信費用は、同じ一枚のコインだ。全東信に貸した6行の引き当て、たとえば東和銀行の58億8600万円は、その裏側の最初の実測値にすぎない。強気筋は、コインの表しか見ていない。次にどこが出るかを探すなら、見るべきは非銀行の立替・ファクタリング層と、開示の薄い地銀の域外与信である。その非銀行層は、全東信の債権者一覧にすでに顔を出している。貸付型クラウドファンディングのバンカーズが約21億円で名を連ね、その先には個人の資金がある(日本経済新聞)。地域銀行セクターに強気転換しない理由は、また一つ増えた。
(本稿は特定の投資行動を推奨するものではない。全東信の粉飾および債務超過は東京商工リサーチの調べに基づく現時点での疑いであり、確定した事実ではない。数値は日本銀行、帝国データバンク、東京商工リサーチの公表資料および各行の適時開示に基づく。)