第一ライフグループ(旧第一生命ホールディングス、コード8750、2026年4月1日付商号変更)は2026年2月13日、2025年12月末グループEVを9兆6,500億円と公表した。13カ月前の8兆1,646億円から18%増。同期間に株価は22%上昇し、EV成長をやや上回った。動きはわずかだったのがP/EV倍率だ。2025年3月末で0.51倍、現時点で0.53倍。欧州生保のレンジは0.8〜1.0倍である。

本ブログは4月21日に上場生保のJカーブ仮説を提示した。低クーポン債が金利200bp高い環境へ4年で入れ替わるという構造である。当時の根拠は感応度開示と富国生命相互会社の早期データだけだった。第一ライフの12月末開示で、上場2銘柄のうち1銘柄について仮説が実測値で裏付けられた。市場はEV成長を額面通り受け入れている。縮まらないのは欧州生保との乖離だ。

5月中旬と6月下旬。T&Dホールディングス(8795)は5月中旬に年次MCEV、第一ライフは6月下旬に監査済み年次EVを開示する。残り3週間と2カ月、いずれも確定した期日だ。

構成こそ市場が見落とした論点である。グループ修正純資産相当額は2,500億円減。第一生命単体の国内債券含み損が2兆452億円から3兆4,150億円へ1兆3,700億円拡大したのが主因だ。一方、保有契約価値相当額は1兆7,300億円増の8兆1,100億円。見出しの数字は両者の合計だが、実質は後者にある。

保有契約価値が膨らんだ理由は、金利上昇により負債の割引率が高まったことだ。長期保険負債は、生保が保有する長期債券資産よりも残存年限が長く、デュレーション・ミスマッチを抱える。J-ICS(経済価値ベースのソルベンシー規制、2025年度から開示義務化)はこの非対称性を30年ぶりに可視化した。2026年初に各紙が一斉に取り上げた「13兆円含み損」の数字は、資産側だけを見ていた。

EVを押し上げた要因は四つあり、すべて同じ方向を向いた。同期間に日経平均株価は3万5,617円56銭から6万537円へ70%上昇。30年国債利回りは2.688%から3.66%へ97bp上昇し、ドル/円は149円52銭から159円50銭台へ6.7%下落した。本業は新契約価値と既存契約からの期待リターンを合わせて約7,500億円のEVを積み上げた。第一ライフのグループEV感応度は金利+50bpで▲1,299億円、EV全体の2%未満にとどまる。債券含み損は事実だが、EVの主役ではない。

T&Dは年1回、5月中旬にMCEVを開示する。直近開示値は2025年3月末の3兆9,457億円。同社が開示する感応度に観測された市場変動を当てはめた筆者試算は次の通り。

T&D Group MCEV(億円、筆者試算)
開示Group MCEV(2025年3月末)39,457
営業寄与(13カ月分)+2,300
金利+97bp(感応度ベース)-400
株式+70%(大幅変動を加味)+6,000〜8,000
為替わずか
試算Group MCEV47,000〜49,500

試算中央値は+22%。第一ライフ実績(+18%)と近い水準で、5月中旬の開示で答え合わせができる。

第一ライフの2025年3月末時点のP/EVは0.51倍(時価総額4兆1,706億円÷EV 8兆1,646億円)。直近は0.53倍(5兆1,090億円÷9兆6,500億円)。T&Dは2025年3月末0.41倍(1兆6,253億円÷3兆9,457億円)、直近は試算ベースで0.38〜0.40倍。第一ライフの0.51→0.53倍の動きは、株価上昇(+22%)とEV成長(+18%)の差をほぼ正確に吸収している。問題なのは欧州との約30ポイントの乖離だ。株式70%上昇・金利97bp上昇・円6.7%下落・EV18%増を経ても、この乖離は縮まらなかった。

P/EVが4年で0.85倍へ上昇し、EVが開示ベースで複利成長を続けるなら、第一ライフは株価上昇とEV成長を合わせて年率約21%、配当利回り3.7%(年52円÷終値1,410.5円)を加え年率20%台半ばの総合リターンとなる。T&Dは0.39倍を起点に、4年平均ROEV 7.9%で年率約31%、配当利回り3.4%を加え30%台前半。終端倍率が0.7倍にとどまる場合、第一ライフは年率10%台半ば、T&Dは20%台半ばに後退する。

算術は明快だが、買い手が最終的に倍率を0.85倍まで取りに行くという前提が成り立つかは別問題だ。第一ライフは修正ROE(会計利益÷株主資本、足元約12%)、T&DはROEV(EV成長率)。両者は厳密には別の指標だが、各社が開示する価値創出率の指標として並列で扱った。

乖離が縮まらない理由は三つある。一つは人口動態。日本の新契約市場の縮小は、長期にわたるEV成長率の前提を制約する。もう一つは政策保有株の縮小。債券含み損を相殺してきた株式含み益は東証主導のプログラムの産物でもあり、進行とともに緩衝材は薄くなる。J-ICSの実績不足も加わる。30年間にわたって会計利益で生保を値付けしてきた投資家は、新基準のEV数値を複数の開示サイクルで検証されるまで割り引いて見る可能性がある。いずれも仮説そのものを否定しない。再評価が0.85倍ではなく0.7倍で頭打ちになる理由となる。

外圧の有無も論点だ。上場銀行のP/Bは2023〜25年に0.5倍から1倍超へ動いたが、これは東証がPBR1倍割れの上場企業に対して説明や対応を求める要請を出した後である。生保には現時点で同等の圧力がない。M&A、規制当局による主導、機関投資家がJ-ICSを主たる評価軸として採用する動き。どれもトリガーになり得るが、予測できない。外圧がなければ、乖離は途中で止まる可能性がある。

事業会社としての生保は、足元ではJカーブ仮説の方向と整合的に動いている。ロイターが2026年4月27日に公表した国内主要生保10社の運用計画調査では、4社が円債残高の積み増しを計画した。1年前はゼロだった。明治安田生命は前年度の買い入れ抑制から逆転、北村乾一郎執行役員・運用企画部長は「1兆円の単位で買い増していく」と語った。日本生命は2025年度に約3兆9,200億円規模の超長期国債入れ替えを実施したが、同社の26年度運用計画では入れ替え規模を24年度の2兆円以下に縮小する方針を示した。30年国債利回りの年度末予想は10社中央値で3.50〜3.90%、1月の最高値3.88%を上回ると見る社はない。生保は運用面で、スプレッド拡大を見越したポジションを取り始めている。上場株式の買い手は、まだ動いていない。

第一ライフの6月開示は12月末の9兆6,500億円から始まり、追加の3カ月分の株高と小幅な金利上昇を反映する。妥当な着地は9兆5,000億〜10兆5,000億円。株価が現状水準で推移すれば、P/EVは0.50〜0.55倍となる。T&Dの5月開示は前掲試算が照合対象となる。確定値が4兆7,000億〜4兆9,500億円の範囲に収まれば、P/EVは0.40倍前後。両方とも開示日は確定しており、いずれも試算を実測値に置き換える。

その先の経路は、開示をどう投資家が読むかに依存する。短期で起きるのは機械的な巻き戻しだ。これまで分析していなかった投資家が確定値を見て調整し、P/EVは0.55〜0.60倍程度へ。12〜18カ月後に来るのが構造の理解だ。欧州生保との倍率比較がセルサイドのレポートに乗り、2023〜25年の銀行株の動きが類例として共有され、2027年3月期決算(27年5〜6月開示)で順ざやの拡大が決算数字に表れる。P/EVは0.7倍前後。完全な再評価、すなわち0.85倍への到達は4年の最終局面の話で、生保版PBR1倍要請に類する制度・市場の圧力が必要となる。短期の動きは小さく、中期は実現可能性が高く、長期こそがリターンの本丸だ。

1997〜2001年、複数の日本生保が破綻し、契約者が損失を被った時期は、就業経験のある日本人投資家の制度的記憶に刻み込まれている。13兆円の含み損という数字はその記憶を呼び起こす。市場は記憶を値付けしている。一方、第一ライフの2月開示は、グループEV +18%、ESR 213%、順ざや拡大、債券入れ替えを支える株式売却の加速を示している。実質は動いた。倍率の動きはわずかにとどまった。

次の証拠は5月と6月の開示で出る。あとは投資家がそれを読み解くかどうかだ。

本記事は筆者による公開情報の分析であり、投資助言ではない。第一ライフグループの2025年12月末グループEV概算値は同社2026年3月期第3四半期決算電話会議資料(2026年2月13日公表、p.34)に基づく。T&DのプロフォーマMCEVは各社開示の感応度と観測された市場変動から筆者が試算。確定値は次回EV開示(T&Dは2026年5月中旬、第一ライフは6月下旬の見込み)で示される。

— 玉露