2025年度の全国企業倒産は1万425件にのぼった。2年連続で1万件を超え、見出しだけ追えば「中小企業がいよいよ崩れ始めた」と読みたくなる。だが同じ集計の裏側を見ると、負債総額は1兆5537億円で、こちらは前年度の2兆2525億円から2年連続で減った。負債5000万円未満の倒産が全体の62.1%を占め、比較可能な2000年度以降で最多となった(帝国データバンク、2025年度報)。件数は増え、金額は縮む。この二つは逆を向いている。
逆を向いている理由は単純で、消えているのが小さな会社だからだ。大型倒産が金融システムを揺るがしているのではない。長く延命してきた零細が、件数として表に出始めた。だから「倒産が増えた=日本経済が悪化した」という読みは、ここで一度止めたほうがいい。起きているのは景気後退ではなく、淘汰の質の変化である。
その変化を駆動しているのは、二つの力だ。一つは日銀の金利正常化。もう一つは、手形を廃し支払いを正そうとする取引慣行の規制改革で、こちらは日銀とは無関係に進む。本稿は官庁統計でこの二つを追い、最後に、どちらの統計にも映らない部分でいま起きていることを見る。結論を先に置けば、金利正常化は一枚のコインだ。表は銀行のスプレッド改善であり、裏は借り手の淘汰である。そしてもう一方の規制改革が、淘汰された層の逃げ場となる運転資金の経路を、同じ時期に塞いでいく。
価格は上がった。与信は絞られていない
日銀短観は、海外でも TANKAN として通る四半期調査で、約1万社の体温を測る。中小企業の三つの系列を並べると、いま起きていることが一目で分かる(短観2026年3月調査)。
借入金利水準判断(「上昇」超)から見る。中小企業の実績DI(回答割合の差を示す指数)は2024年12月の51から、2025年を通じて63→55→49→46と一度落ち着いたあと、2026年3月に64へ跳ねた。前回比プラス18である。日銀は2025年12月、政策金利を0.5%から0.75%へ引き上げ、金融機関は短期プライムレートの引き上げで追随した。その波及が、借り手の体感として数字に出たのがこの跳ねだ。先行きも64で、緩む気配はない。
金融機関の貸出態度判断(「緩い」超)はどうか。中小企業はこの1年、13から12へほぼ動かず、2026年3月もプラス12にとどまる。銀行は中小への貸出を絞っていない。
最も動かないのが資金繰り判断(「楽である」超)だ。中小企業は1年以上プラス8で横ばいを続け、2026年3月にプラス7へわずかに下げた。平均的な中小は、いまも「楽」の側にいる。
この三つを重ねると、淘汰の経路が見えてくる。価格、つまり金利は上がった。だが与信の量も、資金繰りの体感も、平均では崩れていない。締めているのは貸し渋りではなく、利上げそのものだ。「銀行が貸さなくなった」式の説明は、官庁データのほうが先に否定している。
金額でも伝達は確認できる。法人企業統計の支払利息等(全産業)は、2025年1-3月の前年同期比14.3%増から四半期ごとに加速した。19.4%、20.2%、29.2%と上がり、2026年1-3月には31.2%増に達している(財務省、令和8年1-3月期)。金利は確実に企業の利払いに乗っている。
平均は無事だ。割れているのは、統計が測らない裾だ
利払いが増えても、中小企業全体がそれで潰れるわけではない。中小企業庁の白書(2025年版)でさえ、金利上昇による支払利息の増加を織り込んでも、中小企業の経常利益はむしろ押し上げられる可能性があると書く。
割れているのは平均ではない。裾である。法人企業統計で経常利益の前年同期比を資本金規模別に見ると、2026年1-3月期は資本金10億円以上が24.7%増、1億〜10億円が11.2%増に対し、1000万〜1億円はわずか1.5%増にとどまった。大企業が急伸する横で、最小規模はほぼ横ばいだ。利上げと、転嫁できないコストと、賃上げの三方から挟まれているのは、この層である。
ただし、ここに統計のからくりがある。法人企業統計は資本金1000万円未満を調査対象に含まない。つまり最も危ない真の零細は、この統計の定義上、最初から視野の外にいる。平均が無事に見えるのは、本当に割れている層が測定対象に入っていないからだ。
ゾンビ企業の比率をめぐっては、帝国データバンクが2024年度を14.3%(推計約21万社)と置き、2年連続の低下とみるのに対し、東京商工リサーチは国際決済銀行(BIS)基準で15.20%、前年度比0.63ポイントの悪化とする。二つの集計は逆を向いている。前者は「減った」と数え、後者は、金利が上がっても稼ぐ力が追いつかず新たにゾンビへ区分される企業を捉えている。どちらが正しいかではない。金利ある世界では、同じ母集団を見ても、数え方しだいで増減が反転するということだ。倒産統計の件数増と負債減のずれと、同じ構図である。そして数え方が割れるほど、本当に弱い層がどこへ流れたかは、統計の外でしか追えなくなる。
締め出された借り手は、どこへ流れるか
締め出された借り手の逃げ場は、利上げとは別の力が広げた。動かしているのは日銀ではなく、民法と公正取引委員会である。
2020年に施行された改正民法が、土台を整えた。譲渡制限特約のついた売掛債権でも譲渡は原則有効となり(466条)、将来発生する債権の譲渡も明文化された(466条の6)。これで、売掛金を早期に現金化するファクタリングも、将来の売上を裏づけに資金を入れるレベニュー・ベースト・ファイナンス(RBF)も、法的な足場を得た。前者は中小の資金繰り全般へ、後者はおもにスタートアップへ広がったが、共通点が一つある。どちらにも専用の業法がない。金融庁は、ファクタリング全般を規制する法律はなく、当庁の所掌でもないと明言する。RBFも同じ無規制地帯にあり、登録制の議論はあるが2026年時点で導入されていない。
法人企業統計を見ると、この組み替えは数字に出ている。受取手形割引残高(全産業)は2025年1-3月の6200億円から2026年1-3月に4158億円へ、前年同期比32.9%減で縮んだ。手形を割って当座をしのぐ旧来のやり方は細っている。これは利上げの結果ではない。背中を押したのは、2026年1月施行の改正下請法(中小受託取引適正化法)だ。手形払いを支払手段として認めず、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに手数料込みの満額を受け取れないかたちでの利用を禁じた。発注側が下請に資金繰りの負担を回す経路を、ひとつずつ塞いでいる。一方で短期借入金は8.6%増えた。借り手は、手形から借入や債権の前倒しへ、手段を組み替えている。
塞がれた経路の先には、規制の空白がある。そこに偽装業者が入り込む。買い手が回収リスクを負わず、回収できなければ売主に買い戻させる。実態が貸付けに等しければ、名目がファクタリングでも貸金業に当たる。最高裁は2023年(令和5年)2月、給与債権を買い取って本人を通じて回収する取引を貸金業に該当すると判断した。金融庁と日本貸金業協会は、こうした偽装ファクタリングを無登録のヤミ金融として繰り返し注意喚起している。RBFも、収益分配の名目でも実態が貸付けなら同じ線を越える。資金繰りが悪化した企業ほど、合法と違法の境目にある業者へ引き寄せられる。
この領域の規模を金額で示すことはできない。信頼できる一次統計がなく、流通する数字の多くは業者側の推計だからだ。だが、規制当局が警告を出し続けるだけの広がりはある。法人企業統計では、貸金業等の経常利益が2026年1-3月に9.4%増、設備投資は16.9%増と伸びた。銀行から押し出された資金需要がノンバンク側で受け止められている気配は、間接的にだが数字に出ている。
一枚のコイン
ここまでをまとめると、二つの力が同じ裾を締めている。日銀の金利正常化は、資産側と負債側で一枚のコインだ。表は、銀行が金利を価格にできるようになったこと、すなわち地域金融機関を含めたスプレッドの改善であり、裏は、その同じ金利が転嫁できない裾を削ることである。もう一つの力は、手形を廃し取引を正そうとする規制改革で、こちらは日銀とは無関係に、裾の古い資金繰りの経路を塞ぐ。動機は別々でも、向かう先は一つ、無規制の資金繰りへの押し出しだ。日銀が金利を動かすほど、規制が経路を塞ぐほど、押し出しは進む。
その押し出しには、いまのところ行き場がある。短期借入は増え、貸金業の利益も伸び、ファクタリングやRBFがその先を受けている。だから倒産統計の件数は、実際のストレスに遅れて動く。表に出た1万425件は、水面下で起きていることの後追いにすぎない。
押し出される側は、それを選んでいるわけではない。去年なら手形を割って当座をしのげた裾が、2025年12月の利上げと2026年1月の取適法という二つの日付を境に、銀行の外の経路へ一方向に追い込まれた。選択ではなく強制であり、効き始めたのが今年だ。
問題は、この吸収に限りがあることだ。短期借入もノンバンクも、債務を組み替えはするが返済原資を生まない。買い戻しを前提とするファクタリングに至っては、つなぐたびに翌月の穴を深くする。帝国データバンクは、倒産に至りうる中小企業が水面下で増え続け、年後半以降の倒産動向に影響しうるとみる。吸収が満ちたとき、ストレスは表に出る。そして無規制地帯が小さく、規制当局が既にそこへ寄っている以上、表面化する先は、より大きく目に見える倒産件数のほうだろう。
だから見るべきは、二つの短観DIの差だ。借入金利水準判断はすでに64まで上がり、資金繰り判断はなおプラス7にとどまる。この乖離こそ、利上げを借り手がまだ吸収できている距離を測っている。資金繰りDIが中立へ向けて崩れ、同時に倒産件数が加速したとき、吸収は限界に達する。市場でそれが映るのは、地域金融機関の与信費用だ。
では投資家は何を見るか。本稿はマクロの枠組みを論じたもので、銘柄を挙げる場ではない。それでも方向だけは言える。金利ある世界の勝者は、与信を価格にできる側だ。地域金融機関はスプレッド改善と与信費用増の綱引きに入る。市場はいまスプレッド改善のほうを値付けしているが、本稿の見立てが正しければ、過小に置かれているのはコスト側だ。とりわけ、PBRが低いというだけで弱小地銀を統合・再評価の候補として買い集める動きは、その安さが裾の与信リスクを映している可能性を見落としかねない。割安は再評価の入り口とは限らず、価値の罠の入り口でもある。銀行から押し出された資金需要を受けるノンバンク・貸金業は、当面その追い風を受ける。そして水面下で積み上がった層が表面化する局面では、事業再生に関わる領域が動く。日本の消費に強気へ転じるという話ではない。正常化が誰の利ざやになり、誰のコストになるかを、規模別に見分けるという話だ。
統計に映る淘汰は、遅れて差す影にすぎない。先に動くのは水面下の吸収で、それが尽きるまでの距離こそ、いま値付けすべきものだ。