三重苦の計算:ホルムズが閉じた日本で消費は伸びるか

エネルギーが高い。金利も上がる。原材料も上がる。この三つが同時に進行するなかで、個人消費が伸びる経路があるのか。ない。消費が伸びないなら何が日本の成長を支えるのか。それもない。 筆者はこれまで日本株に強気だった。賃金上昇、デフレ脱却、企業統治改革。その見立て自体を全面的に撤回するわけではない。だが「新しい日本」の物語が国内消費にまで及ぶという期待には、データが明確にNoと言っている。消費税と財務省の構造的問題については別稿で書いた。本稿ではマクロデータと企業業績への波及を追う。 エネルギーコストの現在地 4月1日、政府の電気・ガス代補助金が終了した。2022年から断続的に続いた補助は、累計で13.4兆円に達していた。その緩衝材がなくなる。 電力各社は液化天然ガス(LNG)調達コストの上昇分を小売料金に転嫁する。世帯あたりの電気代は月額1万5000円程度の上昇が見込まれている。ガソリンは政府がリッター170円に上限を設けたが、補助の原資は国債だ。政府債務はGDP比235%。財政で消費者を守る余力は限界に近い。 背景はホルムズ海峡の事実上の閉鎖だ。4月8日に停戦が合意されたが、翌9日時点でイランは依然として通航を制限している。日本の原油輸入の94.2%は中東から、うち73.7%がホルムズ海峡を経由する。ロシアからの調達を減らした結果、中東依存度はむしろ96%まで上昇していた。 高市首相は3月16日に戦略石油備蓄から8000万バレルを放出。備蓄は254日分から約230日分に減り、5月にも追加放出を検討している。補助は切れ、備蓄は減り、海峡は開かない。 金利が上がる 日銀は3月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%に据え置いた。1995年以来の高水準だ。植田総裁は4月の利上げの可能性を排除しなかった。元日銀チーフエコノミストの関根敏隆氏も4月利上げを支持している。次の決定会合は4月27-28日。 日銀のロジック:原油高が消費者物価指数(CPI)を押し上げ、春闘の名目賃上げ率は連合第1次集計で5.26%、実質金利はなお大幅にマイナス、正常化の継続は正しい。 だがこのロジックには穴がある。原油高によるCPIの上昇は需要拡大ではなくコストプッシュだ。日銀は「賃金から物価への二次的効果がある以上、利上げは正当化される」と主張する。確かに賃金は上がっている。だがその5.26%の名目賃上げがCPI3%超と電気代の跳ね上がりに食われ、実質購買力が改善しない限り、二次的効果の議論は的を外している。供給ショックに利上げで対応すれば需要をさらに冷やす。2000年のゼロ金利解除、2006-07年の利上げ局面と構図は同じだ。しかも今回は供給ショックの原因が外生的で、悪化している。 原材料が足りない ホルムズ海峡は世界の尿素輸出の約30%、アンモニア輸出の20-30%が通過する。日本の石油化学産業の急所はナフサだ。アジアのナフサの60-70%がホルムズを経由し、日本と韓国の石化メーカーは数週間分の在庫しか持たない。複数の石化企業が減産を発表した。 日経によれば、燃料油やディーゼルの調達難は工場だけでなく銭湯にまで広がっている。日産とトヨタが減産に入った。製油所の稼働率は設計能力の67.7%まで落ちた。 4月13日にはTOTOがユニットバスとシステムバスの新規受注を停止した。天井や壁に使われるフィルム接着剤、コーティング剤に含まれる有機溶剤が不足しているためだ。有機溶剤の原料はナフサである。再開時期は未定。タカラスタンダード、リクシルも供給への懸念を表明し、TOTO株は一時8.8%下落した。風呂の接着剤が足りないから浴槽が売れない。サプライチェーンはそこまで具体的に壊れている。 実質賃金の計算 2025年の実質賃金は前年比マイナス1.3%。4年連続のマイナスだ。2026年1月にようやくプラスに転じたが、第一生命経済研究所の新家義貴氏は、原油が100ドルを超える水準で長期化すれば2026年度の実質賃金は再びマイナスに転落すると指摘していた。ブレント原油はすでに104ドル台をつけた。 春闘の名目賃上げ率は5%台。だがCPIが3%を超え、電気代が10-30%上がり、ナフサ由来の消費財価格が上昇するなかでは、実質可処分所得はフラットからマイナスだ。消費はGDPの約55%を占める。その消費が伸びないなら、輸出か設備投資で支えるしかないが、輸出は製造業のマージン圧縮、設備投資は日銀自身が認めるように人手不足と資材コスト上昇が足かせになっている。 G7で最も深い傷 三重苦はグローバルな現象だ。だが痛みの分配は均等ではない。ゴールドマン・サックスは原油110ドル前提で米GDP成長率見通しを0.3ポイント引き下げ、2.2%とした。年間6500億ドル規模のAI設備投資がGDP比2%の成長下支えとして機能する。FRBは少なくとも利上げはしていない。欧州はLNG供給途絶に苦しむが、2022年のロシア危機後にガス供給を分散させた経験がある。 日本だけが三つの条件を同時に満たしている。エネルギー輸入の集中度が先進国で最高、中央銀行が利上げ方向にあるのは日銀だけ、財政余力がGDP比235%の債務で最も乏しい。英エネルギー分析機関ゼロカーボン・アナリティクスのエネルギー供給途絶リスクスコアは日本が主要国中最高の6.4。韓国5.3、インド4.9、中国4.4。G7のなかで脆弱性が突出している。 企業業績の下方修正はこれからだ 2025年12月時点の市場コンセンサスを振り返る。ジャナス・ヘンダーソンはTOPIX構成企業について二桁の1株当たり利益(EPS)成長を予想。バンク・オブ・アメリカは年末のTOPIX3,700、日経平均55,500。大和はTOPIX3,750。いずれもホルムズ閉鎖を織り込んでいない。 日経平均は2月末の最高値から10%超下落し、テクニカルな調整局面に入った。だがここまでの下落はポジション解消と原油の恐怖が主因であり、アナリスト予想の本格的な切り下げはこれからだ。 ブルームバーグは4月12日、TOPIX500構成企業のうち直近1週間で113件の業績予想が下方修正されたと報じた。下方修正が上方修正を上回ったのは昨年7月以来だ。シティグループの業績修正指数(日本)は3月末に0.16まで低下。数週間前の0.42からの急落である。化学・素材セクターでは主要企業の約4割が業績見通しを下方修正した。 だがこれはまだ序章だ。化学・素材・運輸・自動車はエネルギーコストの直撃を受けて修正が始まったが、次の波は小売・外食・不動産だ。光熱費上昇がサービス業のマージンを圧迫する効果、円安の輸入コスト押し上げ、消費の三重苦から来る需要減退。これらは4月下旬から5月のガイダンスシーズンで初めて数字に表れる。 2008年のリーマン・ショック時、日本のGDPは年率12.1%のペースで縮小し、TOPIXは高値から61%下落した。今回は金融危機ではなくエネルギー危機だが、ダラス連銀の試算ではホルムズ閉鎖が3四半期続けば原油は132ドルに達する。その場合、TOPIX構成企業の二桁減益は現実的なシナリオだ。 ガイダンスシーズンに向けて 危機前のコンセンサスが二桁増益。実際に着地しそうなのは横ばいか一桁台前半。海峡が閉じたまま第2四半期に入れば減益もあり得る。市場の10%の調整は、危機前コンセンサスの二桁増益が横ばいに着地すると仮定した場合、想定されるEPS修正幅の3分の1程度しか織り込んでいない(筆者の試算)。残りはガイダンスシーズンで来る。 IMFの2026年成長率見通しは0.8%。エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は海峡閉鎖が長期化すればGDP3%の縮小もあり得ると指摘した。仮に明日ホルムズが完全に開いたとしても、備蓄の消耗、サプライチェーンの断裂、補助金に投じた財政資金はもう戻らない。 エネルギーコスト、金利、原材料。三つとも上がっている。三つとも、ホルムズ海峡が開かない限り反転しない。日銀が利上げを撤回しても、エネルギーと原材料のコストが消費を圧迫し続ける。日銀が利上げを強行すれば、借入コストがさらに上乗せされる。この計算が変わるまで、日本株の下方修正リスクは続く。 海外投資家は日本の消費関連株に長年弱気だった。正しかった。「新しい日本」の物語のなかで、賃金上昇とインフレがようやく消費セクターにも追い風になるという期待が一部にあった。三重苦はその期待を潰すはずだ。金融株は利上げの恩恵を受けている。半導体装置や防衛は海外需要で回る。だが人口が毎年90万人ずつ減り、実質賃金が4年連続マイナスで、原油輸入の94%をホルムズ海峡に依存し、投入コストが上がり続ける国の消費で業績が決まる株を、ここで強気に転じる理由はどこにもない。 GDPの55%を占める個人消費は、日本株にとって壁のなかのカビのようなものだ。三重苦はカビの繁殖を加速させるかもしれない。だが仮にホルムズが明日開いたとしても、カビが消える見通しはない。壁紙を貼り替えても(補助金)、換気を良くしても(賃上げ)、湿気の原因(財務省、消費税、人口減少)を断たない限り、カビは戻ってくる。それが日本の消費セクターの現実だ。 消費が構造的に伸びない理由は三重苦だけではない。財務省と消費税の構造的問題についてはシュリンクフレーション国家で書いた。 — 玉露 本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断は読者自身の責任で行われたい。

2026年4月14日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)

254日

日本は254日分の石油を備蓄している。2月28日以降、この数字はお守りのように繰り返されてきた。ホルムズ海峡で何が起きても日本は耐えられる、という証拠として。だがこの数字は誤解を招く。 3月16日、高市首相は日本史上最大の石油備蓄放出を命じた。8,000万バレル、国内消費の45日分に相当する。民間備蓄と国家備蓄の双方から取り崩され、IEA加盟32カ国による4億バレルの協調放出の一環として実施された。日本の拠出量は米国に次ぐ2位だ。 放出後、209日分が残っている。主要国のなかでは依然として最も厚い。ドイツは76日。フランスは70日。韓国は49日。英国は39日。IEAが義務づける90日の最低基準を上回るのは日本だけだ。 問いは209日が多いかどうかではない。どれだけの速度で減っていくかだ。 三層構造 日本の備蓄制度は1973年の石油危機を機に構築され、50年かけて洗練されてきた。三つの層からなる。2025年12月末時点で、国家備蓄が146日分、石油精製業者に義務づけられた民間備蓄が101日分、産油国との共同備蓄が7日分。 3月16日の放出は民間備蓄の層から始まった。経産省は民間備蓄の義務量を1ヶ月間、70日分から55日分に引き下げ、15日分の消費量を解放した。続いて国家備蓄から30日分が放出された。 各層の機能は異なる。民間備蓄は製油所内にあり、数日で供給網に投入できる。国家備蓄は沿岸10カ所の基地に貯蔵され、放出には大臣の承認と輸送の段取りが要る。共同備蓄は7日分で、供給緩衝というより外交上の仕組みだ。 いま問題になるのは消費速度だ。日本の石油消費は日量約330万バレル。ホルムズが閉鎖されたまま代替供給がなければ、残り209日分は計算上10月下旬まで持つ。だが備蓄は直線的には消費されない。政府は備蓄をゼロまで使い切ることはできない。IEAの90日最低基準は規制上の制約であり、それを下回れば、日本が危機緩衝を失ったという信号を市場に送ることになる。実際の猶予は209日ではない。209から90を引いた約119日、つまり3月16日から約4ヶ月だ。 ホルムズが止めるもの CSISの分析は一読に値する。見出しの数字:日本の石油輸入の93%は中東からで、その70%がホルムズ海峡を通過する。海峡は3月初旬から商船の大半に対して事実上閉鎖されている。例外は限定的だ。イランはラーク島北側に独自の航路を設けて一部船舶の通過を認め、通行料は人民元建てで徴収している。サウジアラビアは東西パイプラインで紅海のヤンブー港に一部原油を振り替えている。だが迂回能力の合計は通常の流量にはるかに及ばない。 石油は全体の一部にすぎない。日本のLNG在庫は3月初旬時点で約400万トン、消費の約3週間分だ。LNGは原油のようには備蓄できない。極低温貯蔵が必要で、時間の経過とともに気化する。主要LNG供給国のカタールは、イランのドローン攻撃を受けて全輸出のフォースマジュールを宣言した。 さらに肥料の問題がある。世界の肥料貿易の約3分の1がホルムズ海峡を経由する。開戦以来、尿素価格は50%上昇した。日本の農業は肥料の大部分を輸入に頼る。エネルギー危機から食品価格への波及は、ガソリンスタンドだけを通るわけではない。 誰も予想しなかった金属 ホルムズの語りは石油が中心だ。だが3月28日、イランはアブダビのエミレーツ・グローバル・アルミニウム(EGA)とバーレーンのアルミニウム・バーレーン(Alba)を攻撃した。中東最大のアルミ生産者2社だ。EGAはタウィーラ製錬所が「甚大な被害」を受けたと発表。Albaはホルムズ閉鎖を受けてすでに生産能力の19%を削減しており、納入のフォースマジュールを宣言した。 湾岸諸国は世界の一次アルミの約9%を生産している。控えめに聞こえるが、2026年のアルミ市場はすでに供給不足が見込まれており、製錬所は一度停止すると再稼働に数ヶ月と多額の資金が要る。EGAとAlbaの年間生産量は合計320万トンを超える。 日本への影響は直接的だ。湾岸地域は日本の一次アルミ輸入の約25%を占めていた。EGAとAlbaは主要供給元であり、既存の契約はすべて履行停止となった。日本市場の現物プレミアムは標準価格から30~40%上昇し、トレーダーは代替供給源の確保に奔走している。LMEのアルミ価格は3月30日に1トン3,544ドルと2022年3月以来の高値をつけ、史上最高値の4,073ドルに迫る。 ある日系自動車メーカーが「極めて混乱している」と業界紙に語ったと報じられており、供給制約が続けば4ヶ月以内に減産に追い込まれると予測した。自動車製造は厳密な仕様で動いている。湾岸グレードのアルミを別の合金に差し替えるには金型の変更が要る。日本と韓国は、2022年以降ほとんどの買い手が避けてきたロシアの生産者ルサールからの購入を検討していると報じられている。供給安全保障が制裁政策と衝突するとき、供給安全保障が勝つ傾向にある。 これは価格の話ではない。物理的な不足の話だ。石油には備蓄がある。アルミには戦略備蓄がない。 原子力の相殺効果 原子炉の再稼働は輸入燃料への依存を減らす。2月9日、東京電力は新潟県柏崎刈羽原発6号機を再稼働させた。設備容量は135.6万kW。米エネルギー情報局は、フル稼働時に年間約130万トンのLNG輸入を代替すると推計している。世界最大の原発であり、2011年の事故以来、東電として初の再稼働だ。 日本で稼働中の原子炉は15基、合計設備容量33GWで、2024年の発電量の9%を担った。さらに3基が再稼働の準備段階にある。事故前は54基で電力の30%を供給していた。 計算は単純だ。再稼働する原子炉が1基増えるたびに、石油とガスの備蓄消費速度は下がる。現在のペースでは一桁パーセントの積み増しだが、事故前の水準に戻ればエネルギー収支は一変する。高市首相は新規建設を推進しており、今回の危機は政治的な追い風となっている。 新潟にとって柏崎刈羽の再稼働はエネルギーの話にとどまらない。建設作業員、運転要員、税収、サプライチェーンの契約が、20年にわたり縮小してきた県経済に戻る。地元の銀行、第四北越フィナンシャルグループはそのサプライチェーンに融資している。休止した原発は15年間ゼロの経済活動しか生まない。稼働する原発は信用のエコシステムを丸ごと蘇らせる。全国のエネルギー統計の下に、こうした粒度の現実がある。 物価高と景気後退が同時に来るとき ニッセイ基礎研究所チーフ株式ストラテジストの井出真吾氏は3月30日、ロイターに対し、市場は本格的なスタグフレーションを織り込み始めていると語った。需要の弱さではなく、供給の制約だ。原油110ドル超がエネルギー依存型製造業の利益率を圧迫する。アルミ不足が組立ラインを止める。肥料コストが食品価格を押し上げる。利下げで解決する問題ではない。 すべての中央銀行を罠にはめるシナリオだ。日銀だけの問題ではない。利上げすればインフレは抑えられるが不況が深まる。利下げすれば成長は支えられるが物価が暴れる。日本は真っ先に影響を受ける。石油の93%、アルミの25%、肥料の大半を、いま砲火の下にある地域から輸入している。日本がスタグフレーションに陥れば、孤立した現象にはならない。同じ供給ショックが中東エネルギーと湾岸の産業金属に依存するすべての経済を貫く。欧州、韓国、インド、東南アジアが規模を変えて同じ計算を抱えている。日系自動車メーカーが4ヶ月以内の減産を警告しているのは、一社の株主への警告ではない。世界の自動車サプライチェーンへの警告だ。 日経平均は2月の高値から14%下落した。紛争が長期化すればさらに10~20%の下落もありうるとの見方がある。市場はデュレーションを織り込んでいる。 円への波及 石油備蓄が緩衝するのは物理的な供給だけではない。通貨も緩衝する。キャリートレードの幽霊で書いたとおり、ホルムズ閉鎖は月あたり約9,000億円の追加ドル買いをエネルギー輸入業者に強いている。スポット市場で1バレル116ドルの原油を買うにはドルが要る。ドルを買うたびに円は弱くなる。 備蓄の放出はこの流出を一時的に遅らせる。備蓄から取り崩されるバレルはすでに代金を支払い済みで、日本国内にある。新たなドル購入は不要だ。だが備蓄を使い切れば、強制的なドル買いが再開し、円安圧力は加速する。 これが石油の時計と通貨をつなぐ線だ。キャリートレードの幽霊は、ポートフォリオが3%の円高に備えているか10%に備えているかを問うた。その答えの一部は、備蓄がいつまで持つかにかかっている。5月までにホルムズが再開すれば、備蓄は本格的に試されることなく、強制的なドル買いも止まる。閉鎖が7月まで続けば、日本はIEAの最低基準に向けて備蓄を取り崩し続け、スポット購入が備蓄放出に取って代わるにつれて強制的なドル買いは強まり、円安圧力は累積する。 植田総裁は3月30日の国会で、利上げをしなければ長期金利が不安定化するリスクがあると述べた。だが石油主導の供給ショックのさなかに利上げするのも別種のリスクだ。日銀は無視できないインフレと、ブレーキをかける余裕のない経済の間に挟まれている。石油の時計は、この罠がいつまで続くかを決める変数だ。 時計が示すもの 日本がこの危機に持ち込んだ254日は、1973年のショック以来50年の政策的規律が積み上げた成果だ。これほど深い備蓄を築いた主要国は他にない。その規律がいま取り崩されている。危機後の補充には、他のすべてのIEA加盟国も同じ市場で原油を買い戻そうとするなかで、危機後の価格で購入する必要がある。 ここから道は二つに分かれる。 一つ目は、戦争が長引く経路だ。石油備蓄はIEAの最低基準に向けて減り続ける。アルミの契約は停止したまま。自動車の生産ラインは減速し、やがて止まる。強制的なドル買いが円安を支え続ける。日銀はインフレと景気後退の間で身動きがとれない。スタグフレーションが定着する。まず日本で、次に同じチョークポイントに依存するすべての経済で。 市場はその経路を織り込んでいる。日経平均は14%下落した。エネルギー依存型の産業株は売られている。自動車メーカーは、まだ決算に表れていないサプライチェーンの混乱を先取りして値付けされている。キャリートレードは円に対するショートを再構築している。すべてがデュレーションを前提としている。 だが戦争は終わる。ホルムズ閉鎖は1ヶ月続いている。あと4~5週間で終われば、強制的なフローは数日で逆転する。石油は備蓄放出が不要になった市場に流れ込み70~80ドルに戻る。強制的なドル買いは止まる。円は強含む。アルミの契約は再開する(EGAとAlbaの製錬所被害の修復にはより時間がかかるが)。サプライチェーンリスクで最も売り込まれた銘柄は値を戻す。そして戦争に先行していた構造的なトレンド(金利正常化、NIM拡大、ガバナンス改革、原発再稼働)が、より安い水準から再開する。 一つ目の経路はあらゆる紙面に載っている。二つ目は載っていない。市場はデュレーションを織り込んでおり、解決を織り込んでいない。長期化がコンセンサスだ。 どちらのシナリオが実現するかはわからない。だが市場がそれぞれにどう値付けしているかは観察できる。一つ目の経路に連動する銘柄(防衛、石油サービス、商品トレーダー)はすでに動いた。二つ目の経路に連動する銘柄(バランスシートの健全な自動車メーカー、金利上昇で利鞘が拡大する銀行、再稼働対象の原子炉を持つ電力会社、一時的に寸断されたが構造的には健全なサプライチェーンを持つ産業株)は、混乱が恒久的であることを前提とした株価で放置されている。 混乱が恒久的だと信じるなら、現在の株価は妥当だ。そうでないと考えるなら、計算は面白くなる。 石油には備蓄がある。アルミにはない。原子炉は建設に何年もかかるが、再稼働には数週間で足りる。原子炉が立つ県は、地銀が20年にわたり縮小する経済のなかで融資を続けてきた県と重なる。金利サイクルがその銀行の融資収益を決める。石油の時計が、日銀が無視できないインフレとブレーキをかけられない経済の間に挟まれる期間を決める。 これは三つの別々の話ではない。距離を変えて見た一つの話だ。 データは2026年3月31日時点。出所:経産省石油備蓄データ via Nippon.com; IEA協調放出 via Al Jazeera; Japan Times(備蓄放出の仕組み); CSIS(日本のエネルギー脆弱性分析); 米EIA(柏崎刈羽再稼働); DropThe(放出後備蓄の国際比較); The National, AL Circle(アルミ供給危機); S&P Global via The National(日本のアルミ輸入シェア)。

2026年3月31日 · 1 分 · Gyokuro (玉露)