足場を失ったライフガード

米10年債4.39%。7月以来の高水準である。30年債4.96%。5%まで4bpしかない。新発10年物国債(長期金利の指標銘柄)の利回りは2.27%で安定しているが、高田審議委員が2会合連続で利上げを主張し反対票を投じた。キャリースプレッド(米10年債と10年国債の利回り差)は212bp。2022年以降の全取引日で、これより狭かった日は1割にすぎない。 ドル円は3月19日(木)に159.8円まで売られ、翌日158円に戻した。財務省が過去に動いた水域だ。日経平均は19日に3.5%安。前日の2.7%高を吐き出した。20日は春分の日で休場。売りが未消化のまま週を越えた。 ベッセントの手持ち札 3月13日の長時間インタビューで、ベッセント財務長官は自分をライフガードに例えた。溺れる人は救助者を引きずり込む、それでも助けるのが仕事だ、と。その1週間後に任期中最悪の米国債急落が来た。 就任14ヶ月、足場は固かった。1月に10年国債利回りが高市政権の財政不安で急騰した際は東京への電話で収まった。キャリートレードが揺らいだ際もFRBによるドル円のレートチェックで足りた。問題はいずれも手の届く範囲にあった。 イラン戦争で構図が変わった。原油110ドル超は電話で解決できる種類の問題ではない。ホルムズ海峡の軍事紛争が米国のインフレ、日本の輸入コスト、米国債利回り、円の4つを同時に圧迫している。 19日、ベッセントはFox Businessで洋上のイラン産原油約1億4000万バレルの制裁解除を示唆した。IEA推計の日量2000万バレル喪失に対して2週間分にすぎない。同時に米国債市場への直接介入を否定した。買い入れ消却のFAQにある「急性の市場ストレス緩和を目的としていない」との記述はそのままだ。銀行の補完的レバレッジ比率の見直しは中期策であり今週には間に合わない。高市・トランプ首脳会談では約730億ドル(約11兆円)の対米投資が表明されたが、ホルムズ海峡を開く手段は何もなかった。 手段にはいずれも上限がある。しかも互いに干渉する。協調介入で円を安定させればドル売りが米国債市場の買い手を減らし、利回りが上がる。利回りを押さえるには緩和が必要だが、それは円安を招きキャリーの巻き戻しを誘う。原油備蓄を放出すれば戦時の資産を消耗する。日銀に引き締め減速を求めればベッセント自身の長期戦略と矛盾する。一方を押さえれば他方が浮く構造だ。 6シグマの計算 1月下旬のダボス会議で、ベッセントは国債利回りの急落を「6シグマ」と表現し、米国債に換算すれば10年債利回りが2日間で50bp動く規模だと即座に述べた。 ソロス・ファンド・マネジメントで1991年からロンドン事務所を率い、2011年から2015年までCIOを務めた経歴を持つ。テール・リスクの計測と、そこに賭ける判断を職業としてきた人物である。6シグマは官僚が軽く使う数字ではない。モデルの信頼性が失われ、流動性が消える領域を指す。 実データで検証する。1月19〜20日の10年国債利回りの2日間累積変動は14.8bp。通常の1年標準偏差3.04bpで割ると3.4シグマ。6には届かない。ロバスト推定量である中央絶対偏差(MAD)を使い、1000日の観測期間で算出すると日次シグマは1.63bp。14.8bpを√2で調整して割れば6.4。30年国債は同じ2日間で30.3bp動き、1年標準偏差に対して6.1シグマ。どちらの経路でも6に到達する。いずれも機関投資家のリスク管理で標準的な手法だ。 同じMADの枠組みで米10年債に換算すると、6シグマの2日間変動は50.3bp。20日終値の4.39%からの到達点は4.89%。事実上の5%であり、ベッセント自身の枠組みが「正常な市場機能を前提にできない」とする水準である。 片山財務相の判断基準 片山さつき財務大臣はMADを使わない。ドル円160は、昨年4回の介入で計約1000億ドルを投じた水準として国民の記憶に残っている。JPモルガンの為替ストラテジストは「明確な防衛線はないが、157〜162円の記憶は鮮明だ」と述べた。 水準より速度が効く。2024年の介入前はドル円が数週間で約10%急騰した。2022年は8%と12%。今回は7週間で6〜7%。過去の介入局面より緩やかである。MADシグマで見ると、過去の介入時の週次変動は約1.1。現在は0.3。差を埋めるには1週間で約2.5円の追加円安が必要で、ドル円162円付近に相当する。2024年7月の介入時の高値とほぼ一致する水準だ。 1月に片山財務相とベッセントは一方的な円安への共同懸念を表明した。2週間後、ベッセントはCNBCで「介入は断じてしていない」と強いドル政策を再確認した。円は下落。月末には協調の痕跡は消えていた。 スプレッド212bpの意味 2022年以降のキャリースプレッドの平均は299bp。212bpを上回った日が全体の90%を占める。200bpを損益分岐とする学術論文は存在しない。あるのは「薄くなるゾーン」だ。為替ヘッジコストは250〜280bpでスプレッドを既に上回っており、生保と年金はヘッジなしで米国債を保有し、円安の継続に賭けている状態だ。レバレッジ勢にとっては1週間で3%の円高がキャリー収益の数ヶ月分を消す。BISは2024年8月の巻き戻しの分析で、スプレッド単体ではなくキャリー対リスク比率に着目した。 212bpから200bpまでの距離は12bp。ベッセントがダボスで6シグマと呼んだ10年国債の1日の変動幅より小さい。 二つの閾値の距離 片山財務相はドル円160〜162円で、速度が伴えば動く。利回りと為替の回帰分析では、スプレッド1bpの拡大がドル円を約7.5銭押し上げる関係にある。160〜162円にはスプレッド13〜40bpの拡大が必要で、2022年の介入時は米国債利回りが週次2〜3MADシグマの速度で急騰していた。 ベッセントは米10年債利回りが2日間で50bp動く局面で初めて動く。4.39%からの到達点は4.89%。ドル円が159円から162円に動いた程度では、彼の枠組みでは危機水準に達しない。 この二つの閾値の間に、キャリー巻き戻し1回分がちょうど収まる。片山財務相が162円で介入する。円が3〜5円急伸する。キャリー勢が米国債を投げ売りする。利回りが1セッションで15〜25bp跳ね上がり、10年債が4.50%前後から4.75%に向かう。売りが連鎖すれば、累積変動がベッセントの50bpに近づく。2024年8月の巻き戻しが、当時より膨らんだポジションと戦争という追加の圧力を伴って再現されることになる。片山財務相の介入がベッセントの危機を生む構図だ。 三つの経路 じわじわ型。 原油100〜110ドル。ホルムズでの追加エスカレーションなし。米10年債が数週間で4.50%へ。10年国債が2.35%へ。スプレッド215bp前後。ドル円が159円から160円を試し、戻し、また試す。介入は160円が定着してから。4月下旬、G20前後。この経路ではベッセントの手段がまだ使える。危険は、じわじわとした接近の間にキャリーポジションが静かに積み上がること。 原油急騰。 湾岸のエネルギーインフラへの追加攻撃でブレント120ドル超。米10年債が週15〜20bp上昇。スプレッド225〜230bp。ドル円が1週間で162〜163円。片山財務相が単独介入。ベッセントは静観する。円が急反発し巻き戻しが走る。10年債4.70〜4.80%。2週間の累積変動が4〜5MADシグマに達する。ベッセントの閾値が視野に入る。時期は戦争次第。 日銀利上げ。 高田提案が過半を得て政策金利1%に。10年国債が1日で15〜20bp急騰。1000日MADで6シグマ超。スプレッドが212から190〜195bpに一気に圧縮され、200bpを割る。為替ではなく利回りの損益計算が崩れ、キャリーの手仕舞いが始まる。ドル円は153〜155円に円高。片山財務相の出番はない。しかし巻き戻しで米国債が売られ、10年債が4.60〜4.70%へ。日経平均が最も深い打撃を受ける。12月短観のFY2025想定為替レートは1ドル147円。4月1日発表の3月短観がFY2026の最初の想定を含む。ドル円159円で輸出企業が計上してきた棚ぼた利益は、150円で大半が消える。147円を割れば来期予想の下方修正が輸出セクター全体に及び、株価を動かすのはスポットレートではなく業績予想の修正だ。2024年8月には日銀の政策変更1回で日経は12%下落した。今回の出発点はスプレッドがより狭く、ポジションがより大きく、戦争という当時にはなかった変数が加わっている。 3経路のうち、今週最も蓋然性が高いのは原油急騰。4月までの基本線はじわじわ型。日銀利上げは確率最低だが深刻度最大であり、1票で決まる。 必要な前提 3経路のいずれも異常事態を必要としない。原油100ドル超、日銀のタカ派傾斜、スプレッドの下位1割。すべて既に存在する条件だ。シナリオを描く目的はタイミングの予測ではない。それは不可能である。ストレスがどの経路から到来するかを事前に特定し、発生時に形を見誤らないことにある。 ベッセントはかつてこう戒めた。崖から滑り落ちるな、と。投資家への助言としては正しい。ただ、200bpのスプレッドを崖っぷちにして、自ら制御できない戦争と、先に飛び込みかねない東京の同盟者に足元を削られている財務長官の口から出ると、聞こえ方が違う。 — 玉露

2026年3月23日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)

NISAでオルカンを持つ人が見落としている為替リスク

「分散しているから安心」の落とし穴 NISAでオルカン(eMAXIS Slim全世界株式)を積み立てている人は多い。「世界中に分散投資しているから安心」と考えている人も少なくないだろう。 だが一つ確認しておきたい。その資産の通貨構成を見たことがあるだろうか。 オルカンの構成比率は、約63.9%が米国株だ(2025年11月末時点)。資産の6割以上がドル建てで運用されている。残りもユーロやポンドなどの外貨建てが大半を占め、円建ての資産(日本株)はわずか4.9%に過ぎない。 オルカンを持っているということは、資産の約95%が外貨建てだということだ。 「分散」されているのは株式の銘柄や地域であって、通貨リスクはほぼ分散されていない。多くの個人投資家が気づいていないポイントだ。 為替がリターンに与える影響 具体的な数字で見る。 仮にオルカンの基準価額がドルベースで年間10%上昇したとする。一見、良い年だ。だが同じ期間にドル円が155円から130円に円高が進んだ場合はどうなるか。 ドルベースのリターンは+10%。為替の変動は155円→130円で約16%の円高。円建てのリターンは約−8%。 株価は上がっているのに、円建てではマイナスだ。 極端な例ではない。2025年前半、まさにこれに近いことが起きた。米国株の軟調さに円高が重なり、オルカンの基準価額は一時16%以上下落した。ドルベースでの下落幅以上に、円建てでのダメージが大きくなった。 「長期で持てば為替は平準化される」は本当か 為替リスクを指摘すると、よく返ってくる反論がある。「長期投資なら為替の影響は平準化される。気にしなくていい。」 20年、30年の超長期で見れば、為替の上下が均されていく傾向はある。その限りでは正しい。 だが歴史を振り返ると、5年から10年の単位で一方向に為替が動き続けた局面は決して珍しくない。 1985年〜1995年。プラザ合意をきっかけに、ドル円は240円台から79円台へ。約10年間で60%以上の円高が進行した。この間にドル建て資産を保有していた日本人投資家は、株価が上がっていても円建てでは大幅なマイナスを経験している。 2007年〜2011年。リーマン・ショック前の124円台から、東日本大震災後の2011年10月には史上最安値の75円台まで。わずか4年間で約40%の円高だ。 2021年〜2024年。逆に、日米金利差の拡大を背景に110円台から一時161円台まで大幅な円安が進行した。この期間にオルカンを保有していた投資家は、円安による「下駄」を履いた状態でリターンが底上げされていた。 ここが重要だ。過去数年のオルカンの好調なリターンには、かなりの部分で「円安のブースト」が含まれている。今後、円高に転じた場合、同じブーストが逆方向に働く。 2026年以降、円高に向かう構造的理由 為替の予測は誰にとっても難しい。だがいくつかの構造的な変化が起きつつある。 トランプ大統領が次期FRB議長に指名したケビン・ウォーシュ氏は、最近の発言で利下げ支持の姿勢を明確にしている。米国が利下げサイクルに入れば、日米金利差は縮小し、円高圧力が高まる。SBI証券のレポートでも指摘されているが、トランプ政権は貿易赤字削減と国内産業保護のため、ドル安誘導政策を志向する可能性がある。直接的な円高要因だ。日銀も緩やかながら利上げの方向にある。高市政権のもとで急激な引き締めは考えにくいが、政策金利が少しでも上がれば、金利差縮小を通じて円高方向に作用する。 これらが重なれば、中期的に円高が進行する可能性は十分にある。 シミュレーション:円高で何が起きるか NISAでオルカンを300万円保有しているとする。ドルベースでファンドの価値が年5%ずつ成長した場合、為替レートの違いでリターンがどう変わるか。 3年後のシミュレーション(ドルベース年率+5%の場合): 為替シナリオ 3年後の円建て評価額 リターン 155円のまま(横ばい) 約347万円 +15.8% 155円→140円(約10%円高) 約314万円 +4.5% 155円→125円(約19%円高) 約280万円 −6.7% 155円→110円(約29%円高) 約246万円 −18.0% ドルベースでは3年間で15.8%成長しているのに、為替次第ではマイナスになる。 「為替ヘッジあり」のファンドを選ぶ手もあるが、ヘッジコスト(現在は日米金利差分で年4〜5%程度)がかかるため、リターンをかなり圧迫する。万能な解決策ではない。 どう考えるか 為替リスクを完全にゼロにすることは、海外資産に投資する限り不可能だ。それでもいくつかの対策は取れる。 最もシンプルなのは、ポートフォリオの中で日本株の比率を見直すことだ。日本株であれば為替リスクがない。前回の記事でも書いたが、過去5年のTOPIXのリターンはS&P 500やNASDAQを上回っている。「日本株はリターンが低い」という先入観は、もう過去のものかもしれない。 円安が大幅に進んでいる局面で大きな一括投資をすると、その後の円高でダメージを受けやすい。積立投資(ドルコスト平均法)を基本にしつつ、一括投資のタイミングには注意を払う価値がある。 そして、為替リスクを「意識する」だけでも意味がある。投資で最も危険なのは、リスクの存在に気づいていないことだ。為替リスクを把握した上でオルカンを持ち続ける判断と、知らずに持っている状態では、何かが起きたときの対応力がまったく違う。 オルカンは悪い商品ではない 長期的な資産形成のツールとして十分に価値がある。それ自体を否定するつもりはない。 だが資産の95%が外貨建てであるという事実は、きちんと理解しておく必要がある。特にこれからの数年間は、米国の金融政策転換やトランプ政権のドル安志向によって、円高が進行する可能性が無視できない。 「オルカンだけで安心」ではなく、為替リスクを理解した上で日本株を含めたバランスの良いポートフォリオを考える。それがこれからの投資環境では重要になる。 次回は、オルカンが連動を目指すMSCI ACWIのパフォーマンスを、S&P 500との比較でバックテストする。 — 玉露

2026年2月25日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)

ケビン・ウォーシュとは何者か:新FRB議長が日本の投資家に与える影響

はじめに:FRB議長の人事は、あなたのNISAに影響する 2026年1月30日、トランプ大統領は次期FRB(米連邦準備理事会)議長にケビン・ウォーシュ氏を指名した。現議長のジェローム・パウエル氏の任期は5月に満了し、上院の承認を経てウォーシュ氏が後任に就く見通しだ。 「FRBの議長人事なんて、自分の投資には関係ない」と思った方もいるかもしれない。 でも実は、FRB議長が誰であるかは、NISAでオルカンやS&P 500を保有している日本の投資家にとって、非常に大きな意味を持つ。なぜなら、FRBの金利政策はドル円の為替レートに直結し、それがドル建て資産の円換算リターンを左右するからだ。 この記事では、ウォーシュ氏がどんな人物なのか、彼のもとでFRBの金融政策がどう変わりうるのか、そしてそれが日本の投資家にとって何を意味するのかを、できるだけわかりやすく解説する。 ケビン・ウォーシュの経歴 まず、基本的な経歴を押さえておこう。 年齢:55歳 学歴:スタンフォード大学卒業、ハーバード大学ロースクール修了 職歴:モルガン・スタンレーの投資銀行部門でM&Aを担当。その後、ジョージ・W・ブッシュ政権でホワイトハウスの経済顧問を務める FRB理事(2006〜2011年):35歳で就任し、史上最年少のFRB理事に。リーマン・ショック時にはバーナンキ議長の側近として危機対応にあたり、緊急融資プログラムの設計に関わった 現在:スタンフォード大学フーバー研究所のフェロー。また、著名ヘッジファンドマネージャーのスタンレー・ドラッケンミラー氏のファミリーオフィスにも勤務 注目すべきは、ウォーシュ氏の義父がロナルド・ローダー氏であることだ。エスティ・ローダーの創業家一族で、トランプ大統領とはペンシルバニア大学ウォートン校の同窓生。長年にわたる友人・側近であり、共和党の大口献金者としても知られている。 この家族関係から、ウォーシュ氏がトランプ政権と対立的な姿勢を取る可能性は低いとの見方が一般的だ。 タカ派からハト派へ:ウォーシュの「変節」 ウォーシュ氏を理解する上で最も重要なのは、金融政策に対するスタンスが大きく変化しているという点だ。 かつてのウォーシュ:筋金入りのタカ派 FRB理事時代(2006〜2011年)のウォーシュ氏は、インフレを強く警戒する「タカ派」として知られていた。 2008年のリーマン・ショック直後、多くの経済学者が大規模な景気刺激策を求める中、ウォーシュ氏は依然としてインフレリスクを主要な懸念事項として挙げていた。CNNの報道によれば、2008年6月のFOMC会合で「インフレリスクが経済にとって最も大きなリスクだ」と発言している。 その後、FRBが大量の国債購入(量子緩和、QE)を拡大したことに反対し、2011年にFRB理事を辞任した。FRBのバランスシートが「肥大化」していると批判し、「FRBにおけるレジームチェンジ(体制変革)」を訴えてきた。 今のウォーシュ:利下げを支持 しかし、最近のウォーシュ氏は明らかに方向転換している。 2025年7月のCNBCのインタビューでは「利下げは正しいバランスに戻すためのプロセスの出発点だ」と発言。同年11月のウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿では、「FRBはインフレの原因が経済の成長や賃金上昇にあるという教条を捨てるべきだ」と主張した。 この転向の論拠はAI(人工知能)による生産性向上だ。ウォーシュ氏は、AIがもたらす生産性の飛躍的な向上がデフレ圧力として作用するため、従来の枠組みよりも低い金利が適切だと考えている。「生産性が年1%上昇すれば、一世代のうちに生活水準は倍になる」と述べている。 この「変節」をどう見るか、市場関係者の間でも意見は分かれている。 エバーコアISIのクリシュナ・グハ氏は「タカ派としての評判があり、独立性があると見なされているからこそ、他の候補者よりもFOMCのメンバーを説得して利下げに持ち込む力がある」と評価している。 一方で、ルネサンス・マクロ・リサーチは「ウォーシュのキャリア全体を通じて、彼はタカ派だった。今のハト派転向は都合によるものだ」と指摘し、「大統領は騙されるリスクがある」と警告している。 ウォーシュ就任で金利はどうなるか では、実際にウォーシュ氏がFRB議長になった場合、金利はどう動くのだろうか。 現在のFF金利(フェデラル・ファンド金利)は3.5〜3.75%だ。主要な予測を整理しよう。 予測機関 2026年の利下げ見通し ウェルズ・ファーゴ 年後半に0.25%×2回の利下げ。年末で3.00%付近 ブルッキングス研究所(ロビン・ブルックス氏) 6月以降に合計1.00%の利下げ。年末で2.5〜2.75% JPモルガン 据え置き継続の可能性。ウォーシュでも大幅利下げは困難 外為先物市場 年内約0.4%の利下げを織り込み ここで重要な点を押さえておこう。 FRB議長は一人で金利を決められるわけではない。 金利を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)は12人の投票権を持つメンバーで構成されており、議長はあくまでその中のリーダーだ。外交問題評議会(CFR)のレポートが指摘するように、直近の1月のFOMC会合では、12人中10人が金利据え置きを支持し、利下げを求めたのは2人だけだった。 つまり、ウォーシュ氏がいくら利下げしたくても、FOMCの多数派を説得できなければ金利は動かないのだ。 ただし、中期的に見れば、利下げの方向性はほぼ確実と言える。問題はそのペースとタイミングだ。 日本の投資家にとっての意味 ここからが、このブログの読者にとって最も大切な部分だ。 ① ドル円への影響:円高圧力 米国の利下げが進めば、日米金利差が縮小し、円高ドル安の方向に力が働く。 さらに、トランプ政権自体がドル安を志向しているという指摘もある。ウォーシュ氏の義父であるローダー氏は、トランプ大統領のグリーンランド買収構想のきっかけを作った人物としても知られており、政権との関係の深さが伺える。 円高が進めば、NISAでドル建て資産(オルカン、S&P 500 ETFなど)を保有する投資家は、以前の記事で詳しくお伝えした通り、為替差損のリスクにさらされる。 ② バランスシート縮小の「副作用」 ウォーシュ氏はFRBのバランスシート縮小(保有する国債等の削減)を強く支持している。Fox Businessのインタビューでは「印刷機の稼働を少し減らし、バランスシートを縮小すれば、大幅に低い金利が実現できる」と述べている。 しかし、ここには矛盾がある。バランスシートを縮小すれば、長期金利には上昇圧力がかかりる。つまり、短期金利(FF金利)は下げても、住宅ローンなどに影響する長期金利は必ずしも下がらない可能性があるのだ。 JPモルガンのフェローリ氏はこの点について「バランスシートの話は専門的に聞こえるが、住宅ローン金利への影響は現実的だ」と警告している。 ③ 日本株にとっては追い風 一方、日本株の投資家にとっては、ウォーシュ氏の就任はポジティブな材料だ。 米国の利下げ→円高が進めば、相対的に円建て資産である日本株の魅力が高まる。海外投資家から見れば、円高は日本株の割安感を解消する方向に作用するし、日本経済のファンダメンタルズ(前回の記事で触れたガバナンス改革、インフレ定着、高市政権の積極財政)が維持されていれば、日本株への資金流入はさらに加速する可能性がある。 まとめ:ウォーシュの「本当の姿」はまだわからない ウォーシュ氏については、率直に言って、不確実性が大きい。 タカ派なのかハト派なのか。トランプ大統領の言いなりになるのか、独立性を保つのか。AIによるデフレ論は本物の信念なのか、議長指名を得るための方便だったのか。 CNNの記事のタイトルが象徴的だ:「もしウォーシュがFRB議長に就任したら、どちらのウォーシュが現れるのか?」 ただし、一つだけ確実に言えることがある。 ...

2026年2月20日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)

円安バブルの終わり:あなたのNISAの「含み益」は本物か?

はじめに:NISA口座の含み益、中身を確認しているだろうか? 2024年1月に新NISAがスタートして以来、多くの方がオルカンやS&P 500の投資信託を積み立ててきたと思う。口座を開くと、嬉しいことに含み益が出ている方も多いのではないだろうか。 でも、ここで一つ質問だ。 その含み益のうち、「株価の上昇」によるものはどのくらいで、「円安」によるものはどのくらいか、把握しているだろうか? この記事では、2021年から2024年にかけての大幅な円安が、ドル建て資産のリターンをどれだけ底上げしてきたかを確認し、その「円安ボーナス」が逆転したときに何が起きるかを考える。 2021〜2024年:歴史的な円安の3年間 ドル円相場の動きを振り返ろう。 時期 ドル円レート 2021年1月 約103円 2022年10月 約151円(32年ぶりの円安) 2024年7月 約161円(37年半ぶりの円安) わずか3年半で、ドル円は103円から161円へ。約56%の円安が進行した。 これは何を意味するのだろうか。仮にこの期間中、S&P 500がドルベースで1ドルも動かなかったとしても、円建てで見ると56%の利益が出ていることになる。 つまり、NISAでドル建て資産を持っていた人は、株価が上がらなくても、円安だけで大幅な含み益を得ていたのだ。 含み益の「分解」をしてみよう 実際には株価も上がっていたので、リターンはもっと大きく見える。ここで、2021年1月から2024年末までのS&P 500の円建てリターンを、株価要因と為替要因に分解してみよう。 S&P 500(2021年1月→2024年12月、概算): ドルベースのリターン:約+45% 円安の効果(103円→156円):約+51% 円建ての合計リターン:約+120% つまり、円建てリターン120%のうち、半分以上が円安によるものだ。 オルカンも同様の構造だ。資産の約95%が外貨建てであるため、円安の恩恵をほぼフルに受けている。 NISA口座を見て「倍になった!」と喜んでいる方は、その利益の半分が為替の「下駄」であることを理解しておく必要がある。 円安は「ボーナス」だが、永遠には続かない 為替には必ずサイクルがある。以前の記事で詳しく見た通り、ドル円は歴史的に5〜10年の単位で大きなトレンドが転換してきた。 1985〜1995年:240円→79円(約10年間の円高トレンド) 1995〜1998年:79円→147円(約3年間の円安トレンド) 2007〜2011年:124円→75円(約4年間の円高トレンド) 2012〜2024年:75円→161円(約12年間の円安トレンド) 2012年から始まったアベノミクス以降の円安トレンドは、すでに12年以上続いている。これは歴史的に見ても非常に長い周期だ。 そして今、トレンド転換を示唆する要因がいくつも揃いつつある。 円高に向かう3つの力 ① 米国の利下げサイクル ケビン・ウォーシュ新FRB議長のもとで、2026年後半には利下げが見込まれている。米国の金利が下がれば、日米金利差が縮小し、ドルの魅力が低下する。これは直接的な円高要因だ。 ② トランプ政権のドル安志向 トランプ大統領は繰り返し「ドルは高すぎる」という立場を示している。貿易赤字の削減と国内製造業の保護には、通貨安が政策的に望ましいからだ。 ③ 日銀の利上げ 日銀はすでに政策金利を0.5%まで引き上げており、今後も緩やかな利上げが予想されている。日本の金利が上がれば、相対的に円の魅力が増し、円高圧力となる。 シミュレーション:円高が来たらNISAの含み益はどうなる ここが最も重要な部分だ。 NISAでS&P 500の投資信託を200万円保有しており、現在の含み益が80万円(評価額280万円)だとする。このうち株価上昇分が40万円、円安分が40万円と仮定する。 ドル円が155円から以下の水準に動いた場合、どうなるだろうか。 ドル円 為替の影響 含み益の変化 残る含み益 155円(現状) — — 80万円 140円(約10%円高) 約−28万円 為替益が消失 約52万円 125円(約19%円高) 約−53万円 大幅減少 約27万円 110円(約29%円高) 約−81万円 ほぼゼロ 約−1万円 ドル円が110円まで戻れば、80万円の含み益はほぼ消える。 ...

2026年2月18日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)