なぜ今、日本株なのか:データが示すオルカン一択の盲点

「NISAでオルカンを積み立てておけば大丈夫」 SNSやYouTubeで、まるで正解のように語られている。だが本当にそれだけで十分か。 筆者は2026年以降、日本株がグローバル指数を中長期的に上回る可能性が高いと考えている。その根拠を、データ、マクロ環境、制度改革、政治環境の四つに分けて書く。 データが語っていること 下のチャートは、過去5年間の主要株価指数を比較したものだ(スタート地点を100に揃えている)。 TOPIXは約200に達した。S&P 500、NASDAQ、DAX、上海総合のいずれよりも高いリターンだ。 意外だろうか。日本の投資メディアでは「米国株最強」「オルカンで世界に分散すれば安心」という論調が支配的で、日本株の好調さはほとんど話題にならない。 ここで一つ押さえておくべき事実がある。オルカン(eMAXIS Slim全世界株式)の構成比率は約60%が米国株だ。「世界中に分散しているつもり」でも、実態はかなりの部分を米国に集中投資している。そしてその米国株が、過去5年でTOPIXに負けている。 新FRB議長と為替リスク 2026年1月30日、トランプ大統領は次期FRB(米連邦準備理事会)議長にケビン・ウォーシュ氏を指名した。元FRB理事(2006〜2011年)で、リーマン・ショック時にバーナンキ議長のもとで危機対応にあたった人物だ。モルガン・スタンレーの投資銀行部門出身、現在はスタンフォード大学フーバー研究所のフェロー。 背景を押さえておく必要がある。 ウォーシュ氏の義父はロナルド・ローダー氏。エスティ・ローダー創業家の一族であり、共和党の大口献金者だ。トランプ大統領とはペンシルバニア大学ウォートン校の同窓で、長年の友人・側近とされている。この関係から、ウォーシュ氏がトランプ政権と対立的な姿勢を取る可能性は低いと市場は見ている。 さらに重要なのはウォーシュ氏自身のスタンスの変化だ。かつてはタカ派として知られていたが、最近は利下げを支持する発言を繰り返している。2025年7月のCNBCのインタビューでは「利下げは正しいバランスに戻すためのプロセスの出発点だ」と述べた。ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿では、AIによる生産性向上がデフレ圧力をもたらすと指摘している。 米国が利下げサイクルに入る可能性は相当程度高まっている。 利下げが進めば日米の金利差が縮小し、為替は円高ドル安に動きやすくなる。NISAで海外株式ファンドを持っている場合、ここが盲点になる。オルカンなどのグローバル株式ファンドはドルなどの外貨建てで運用されている。円高が進むと、ファンドの価値がドルベースで横ばいでも、円に換算したリターンは目減りする。 過去5年ですでに米国株はTOPIXに劣後している。そこに円高が重なれば、差はさらに広がる。 多くのNISA解説ブログやYouTubeチャンネルは、この為替リスクにほとんど触れていない。「長期で持てば為替の影響は平準化される」という意見もあるが、5年から10年の単位で円高が続いた時期は過去に何度もある。 日本企業が変わり始めている 東京証券取引所は、プライム市場に上場する企業に対して、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの改善を要請した。「会社の価値をもっと高めろ」というメッセージだ。 アクティビスト(物言う株主)の活動も活発化している。海外ファンドだけでなく、国内の大手機関投資家もスチュワードシップ・コードに基づいて企業に「もっと株主に利益を還元しろ」と働きかけるようになった。 結果として、配当増額と自社株買いが急速に広がっている。しかもその伸びは企業の利益成長を上回るペースだ。 こうした動きが経営の質そのものを根本から変えたかどうかは、まだわからない。だが少なくとも確実に言えることがある。企業の意識は変わった。株主還元に対する姿勢は明らかに前向きになっており、この流れが後退する可能性は低い。 東証の要請やコーポレートガバナンス・コードといった制度的な枠組みが整備されている以上、企業が「株主を意識しなくてよかった時代」に戻ることは難しい。株主還元の改善トレンドは今後も続く。その蓋然性は十分に高い。 投資家にとっての意味は明快だ。配当利回りの向上と自社株買いによる一株あたり利益(EPS)の押し上げが、株価の下支え要因になる。 高市政権の積極財政 2026年2月8日の衆院選で、高市早苗首相率いる自民党は316議席を獲得した。戦後初めて単独で衆院の3分の2以上を占める歴史的圧勝だ。中曽根政権の300議席(1986年)、小泉政権の296議席(2005年)を上回る。 政権基盤は圧倒的に安定した。参院で否決された法案を衆院で再可決する力を持ち、政策の実行力は大幅に強化されている。 注目すべきは「責任ある積極財政」という基本方針だ。行き過ぎた緊縮財政から転換し、積極的な財政支出で経済成長を促す路線を意味する。物価高対策と家計支援(電気・ガス代やガソリン代の負担軽減、ガソリン税の旧暫定税率廃止、所得税の基礎控除引き上げ)、AI・半導体、造船、量子技術、宇宙、海洋資源などの重点分野への大規模投資、財政支出21.3兆円の2025年度補正予算——「積極財政により国力を強くする」と首相自身が明言している。 金融政策については、政府と日銀の連携を重視する姿勢だ。第一生命経済研究所のレポートによれば、需要超過の状態を維持することで供給力の拡大を促す「高圧経済政策」を志向しているとされる。極端な日銀への圧力は考えにくいが、利上げペースに対してはブレーキがかかりやすい環境と言える。 株式市場にとってのポイントは三つある。 政権の安定性。衆院で圧倒的多数を確保したことで、政策の継続性と予測可能性が大幅に高まった。海外投資家が日本株を評価する際の重要なプラス材料だ。 財政出動の規模。成長分野への大規模な政府投資は、関連企業の収益を押し上げる。 金融緩和的な環境の維持。利上げのペースが緩やかにとどまることで、企業の資金調達コストが抑えられ、株式市場にとっては追い風になる。 高市首相自身も「為替変動にびくともしない日本をつくる」と発言しており、国内投資の強化による内需主導の成長路線を明確にしている。 オルカン一択で、本当にいいのか 分散投資が大切であることに変わりはない。一つの国や地域に集中しすぎるのはリスクだ。 だが「オルカンだけ買えば安心」と思い込んでしまうのは、もったいない。 過去5年のパフォーマンスデータ、新FRB議長のもとでの米国利下げと円高リスク、日本企業の株主還元の加速、高市政権の積極財政。こうした要素を踏まえると、ポートフォリオの中で日本株の比率を見直す価値は十分にある。 本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではない。投資判断は自身の責任で行うこと。 — 玉露

2026年2月27日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)

NISAでオルカンを持つ人が見落としている為替リスク

「分散しているから安心」の落とし穴 NISAでオルカン(eMAXIS Slim全世界株式)を積み立てている人は多い。「世界中に分散投資しているから安心」と考えている人も少なくないだろう。 だが一つ確認しておきたい。その資産の通貨構成を見たことがあるだろうか。 オルカンの構成比率は、約63.9%が米国株だ(2025年11月末時点)。資産の6割以上がドル建てで運用されている。残りもユーロやポンドなどの外貨建てが大半を占め、円建ての資産(日本株)はわずか4.9%に過ぎない。 オルカンを持っているということは、資産の約95%が外貨建てだということだ。 「分散」されているのは株式の銘柄や地域であって、通貨リスクはほぼ分散されていない。多くの個人投資家が気づいていないポイントだ。 為替がリターンに与える影響 具体的な数字で見る。 仮にオルカンの基準価額がドルベースで年間10%上昇したとする。一見、良い年だ。だが同じ期間にドル円が155円から130円に円高が進んだ場合はどうなるか。 ドルベースのリターンは+10%。為替の変動は155円→130円で約16%の円高。円建てのリターンは約−8%。 株価は上がっているのに、円建てではマイナスだ。 極端な例ではない。2025年前半、まさにこれに近いことが起きた。米国株の軟調さに円高が重なり、オルカンの基準価額は一時16%以上下落した。ドルベースでの下落幅以上に、円建てでのダメージが大きくなった。 「長期で持てば為替は平準化される」は本当か 為替リスクを指摘すると、よく返ってくる反論がある。「長期投資なら為替の影響は平準化される。気にしなくていい。」 20年、30年の超長期で見れば、為替の上下が均されていく傾向はある。その限りでは正しい。 だが歴史を振り返ると、5年から10年の単位で一方向に為替が動き続けた局面は決して珍しくない。 1985年〜1995年。プラザ合意をきっかけに、ドル円は240円台から79円台へ。約10年間で60%以上の円高が進行した。この間にドル建て資産を保有していた日本人投資家は、株価が上がっていても円建てでは大幅なマイナスを経験している。 2007年〜2011年。リーマン・ショック前の124円台から、東日本大震災後の2011年10月には史上最安値の75円台まで。わずか4年間で約40%の円高だ。 2021年〜2024年。逆に、日米金利差の拡大を背景に110円台から一時161円台まで大幅な円安が進行した。この期間にオルカンを保有していた投資家は、円安による「下駄」を履いた状態でリターンが底上げされていた。 ここが重要だ。過去数年のオルカンの好調なリターンには、かなりの部分で「円安のブースト」が含まれている。今後、円高に転じた場合、同じブーストが逆方向に働く。 2026年以降、円高に向かう構造的理由 為替の予測は誰にとっても難しい。だがいくつかの構造的な変化が起きつつある。 トランプ大統領が次期FRB議長に指名したケビン・ウォーシュ氏は、最近の発言で利下げ支持の姿勢を明確にしている。米国が利下げサイクルに入れば、日米金利差は縮小し、円高圧力が高まる。SBI証券のレポートでも指摘されているが、トランプ政権は貿易赤字削減と国内産業保護のため、ドル安誘導政策を志向する可能性がある。直接的な円高要因だ。日銀も緩やかながら利上げの方向にある。高市政権のもとで急激な引き締めは考えにくいが、政策金利が少しでも上がれば、金利差縮小を通じて円高方向に作用する。 これらが重なれば、中期的に円高が進行する可能性は十分にある。 シミュレーション:円高で何が起きるか NISAでオルカンを300万円保有しているとする。ドルベースでファンドの価値が年5%ずつ成長した場合、為替レートの違いでリターンがどう変わるか。 3年後のシミュレーション(ドルベース年率+5%の場合): 為替シナリオ 3年後の円建て評価額 リターン 155円のまま(横ばい) 約347万円 +15.8% 155円→140円(約10%円高) 約314万円 +4.5% 155円→125円(約19%円高) 約280万円 −6.7% 155円→110円(約29%円高) 約246万円 −18.0% ドルベースでは3年間で15.8%成長しているのに、為替次第ではマイナスになる。 「為替ヘッジあり」のファンドを選ぶ手もあるが、ヘッジコスト(現在は日米金利差分で年4〜5%程度)がかかるため、リターンをかなり圧迫する。万能な解決策ではない。 どう考えるか 為替リスクを完全にゼロにすることは、海外資産に投資する限り不可能だ。それでもいくつかの対策は取れる。 最もシンプルなのは、ポートフォリオの中で日本株の比率を見直すことだ。日本株であれば為替リスクがない。前回の記事でも書いたが、過去5年のTOPIXのリターンはS&P 500やNASDAQを上回っている。「日本株はリターンが低い」という先入観は、もう過去のものかもしれない。 円安が大幅に進んでいる局面で大きな一括投資をすると、その後の円高でダメージを受けやすい。積立投資(ドルコスト平均法)を基本にしつつ、一括投資のタイミングには注意を払う価値がある。 そして、為替リスクを「意識する」だけでも意味がある。投資で最も危険なのは、リスクの存在に気づいていないことだ。為替リスクを把握した上でオルカンを持ち続ける判断と、知らずに持っている状態では、何かが起きたときの対応力がまったく違う。 オルカンは悪い商品ではない 長期的な資産形成のツールとして十分に価値がある。それ自体を否定するつもりはない。 だが資産の95%が外貨建てであるという事実は、きちんと理解しておく必要がある。特にこれからの数年間は、米国の金融政策転換やトランプ政権のドル安志向によって、円高が進行する可能性が無視できない。 「オルカンだけで安心」ではなく、為替リスクを理解した上で日本株を含めたバランスの良いポートフォリオを考える。それがこれからの投資環境では重要になる。 次回は、オルカンが連動を目指すMSCI ACWIのパフォーマンスを、S&P 500との比較でバックテストする。 本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではない。投資判断は自身の責任で行うこと。 — 玉露

2026年2月25日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)