99の銀行と縮む日本

秋田県の人口は年1.91%のペースで減っている。住民の4割以上が65歳以上だ。2050年には今の6割まで縮む見通しがある。 この県に銀行がいくつあるかは、あまり話題にならない。 日本には上場地方銀行が99行ある。第一地銀62行、第二地銀37行。都市銀行は5行しかない。秋田だけでなく、青森は1.72%、岩手は1.69%、高知は1.71%と、年1%を超えるペースで人が消えていく県が並ぶ。2024年に人口が増えたのは47都道府県のうち東京だけだった。 人が減れば、預金者が減る。借り手も減る。地銀のビジネスモデルは地元の預金を集めて地元に貸す、というものだ。その両側が同時に痩せていく。 預金はどこへ行くのか 秋田で一人暮らしをしていた親が亡くなる。子どもは東京か仙台にいる。相続が発生し、地元の銀行口座は閉じられる。受け取った資金は相続人の口座に入る。三菱UFJか三井住友か、あるいはNISA口座経由でeMAXIS Slimに流れる。 これを年間91万2,000回繰り返す。2024年の日本の自然減は91万2,161人。出生68万7,689人に対し、死亡は約160万人。過去最大の減少幅だ。 マクロの数字にもはっきり出ている。61行の第一地銀の預金残高は2025年3月末時点で333.9兆円。前年比の伸びは0.9%にとどまった。前年度の2.2%増から急減速している。 預金の伸びが鈍化している理由は人口減少だけではない。NISAの口座数は2,700万に達した。若い世代が銀行預金ではなく投資信託に資金を振り向けている。地銀は預金者を人口減少とNISAの両方から奪われている。 貸出と預金の差(ローン・トゥ・デポジット・ギャップ)は2025年12月に108兆円まで縮小した。4年ぶりの低水準だ。 メガバンクとの違い 前回の記事で書いたメガバンクのNIMガンマとは、構図がまるで違う。 三菱UFJやみずほは政策金利の引き上げを利益に直結させている。25bpの利上げで年間1,000億円単位の資金利益が上乗せされる。貸出残高は拡大し、NIMは加速的に改善している。 地銀はそうならない。地銀はメガバンクほど積極的に貸出金利を引き上げられない。地元の中小企業を支える立場にあり、金利を上げれば取引先が苦しむ。預金金利だけが先に上がり、利ざやの改善がメガバンクより遅い。 収益構造の違いも大きい。地銀の収益の約70%は利息収入に依存している。米国の銀行は40%、ドイツは44%だ。手数料ビジネスの厚みがない分、金利環境の変化に対するバッファが薄い。 残りの30%の中身がさらに問題だ。金融庁が公表した2025年9月中間期の地銀決算概要を見ると、手数料・役務収益は前年同期比でわずか23億円の増加にとどまっている。ほぼ横ばいだ。投信販売手数料、ATM手数料、振込手数料、保険窓販。どれも成長余地が乏しい。 一方で債券関連損益はマイナス2,482億円と、前年のマイナス1,289億円から損失が倍近く拡大した。利回り上昇で国債ポートフォリオの含み損が実現損に変わっている。 利益を支えているのは株式売却益だ。2,957億円と前年の1,900億円から大幅に増えた。政策保有株式の売却が効いている。ただし持ち合い株は売れば減る。一過性の利益源泉だ。 つまり非利息収入の実態は、手数料はほぼ横ばい、債券は赤字拡大、株式売却益で辛うじて補填という構造である。株式売却益を除けば、非利息収入はマイナスだ。利息収入への依存度は70%どころではない。 金融庁は2018年の時点で、20以上の県で収益性のある地銀を1行すら維持できなくなる可能性があると警告していた。 不動産に寄りかかる 貸出先が縮む中で、地銀が頼っている分野がある。不動産だ。 地銀の不動産向け貸出は総貸出の約17%を占めている。全国の金融機関による不動産向け貸出残高は2024年3月末に129兆円に達し、前年比6%増。不動産証券化向けのSPC融資は18%増だった。 問題は、一部の地銀が地元を越えて東京や大阪の不動産案件に手を伸ばしていることだ。本来の営業地域の外でリスクを取り始めている。金融庁は2025年12月に不動産融資が膨らんでいる地銀への監視を強化した。返済能力の審査が不十分なケースが確認されたという。 住宅ローンでもメガバンクに押されている。変動金利は都市銀行が0.7-1.0%で提供しているのに対し、地銀はそれより高い。対抗手段として返済期間50年の超長期住宅ローンを出す地銀が増えている。若い世代の取り込みを狙ったものだが、50年ローンを必要とするのは強さではない。 1990年代のバブル崩壊後、地銀は不良債権処理で長い苦しみを味わった。当時の資産規模は185兆円だった。いまは500兆円。金融庁自身がこの類似を意識している。 両側から痩せるバランスシート 地銀のバランスシートは預金側と貸出側の両方から圧縮されつつある。IMFの分析では、人口減少下で貸出の1人当たり残高は預金の1人当たり残高よりも速く減少する。融資先の企業も人口と一緒に減っていくからだ。 メガバンク、ネット銀行、ゆうちょ銀行が同じ預金プールを奪い合っている。ゆうちょ銀行は全国に24,000の拠点を持つ。全銀行を合わせた数の2倍近い。そのゆうちょですら預金残高は2024年12月に192.1兆円と前年の194.9兆円から減少した。 利上げは地銀を助けるか。短期的にはNIMが改善する。実際に2024年9月期の地銀の資金利益は前年比9%増えた。しかし利上げの恩恵は地銀間で均一ではなく、収益力の格差は10年前より広がっている。稼げない地銀はさらに不動産やリスクの高い貸出に傾くか、縮小するかの二択に追い込まれる。 年間91万人が減り、預金が流出し、貸出先が縮み、不動産への依存度が上がり、規制当局が警戒を強めている。この状態で99行が独立して存続するのは、算数的に無理がある。 次回は、それに対する唯一の現実的な回答である再編の話を書く。 本記事は公開情報に基づく筆者個人の分析メモであり、投資助言ではない。投資判断は自身の責任で行うこと。

2026年3月7日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)