金利が変えるメガバンクの利益構造
オルカンに毎月積み立てている人は、日本のメガバンクの決算を見ていない。見る理由がないと思っている。 三菱UFJフィナンシャル・グループの通期純利益見通しは2.1兆円。三井住友は1.5兆円、みずほは1.13兆円。3社とも過去最高を更新した。「金利が上がったから銀行が儲かっている」で済ませている人が多いが、話はそこで終わらない。 線形ではない利益感応度 銀行の利益が金利に比例して直線的に増えるなら、話は簡単だ。実際はそうなっていない。 三井住友フィナンシャルグループの決算資料にはっきり書いてある。政策金利25bpの引き上げごとに、年間の資金利益が約1,000億円増える。2024年3月のマイナス金利解除、7月の0.25%、2025年1月の0.5%、12月の0.75%。ここまでで4回。 この4回分の効果は単純な足し算にならない。利上げは既存の変動金利貸出すべてに波及する。そして貸出残高自体が増えている。三菱UFJの国内大企業向け貸出は2024年9月末に26.8兆円、前年の25.6兆円から拡大。三井住友は22%増の26.6兆円。 利率が上がり、残高も増える。掛け算で効いてくる。オプションの用語を借りれば、NIM(純金利マージン)に対するガンマがプラスの状態だ。政策金利が動くほど、利益の感応度そのものが大きくなっていく。 数字で確認する。三菱UFJのNIMは2023年10-12月期に0.68%だった。それが2025年7-9月期には0.89%。三井住友は0.96%から1.03%へ。みずほの国内貸出・預金金利マージンは0.76%から1.07%に開いた。傾きは加速している。 注目すべきは、三菱UFJが決算のたびに開示する金利感応度の数字が回を追うごとに大きくなっている点だ。2024年11月のH1決算では、7月の利上げ影響を「FY24に+250億円、FY25に+400億円、FY26に+800億円」としていた。2025年1月の利上げでは「当期+200億円、来期以降は年間+1,000億円」に更新された。中計では政策金利1%到達時の年間NII増加を1,400-1,500億円と見積もる。 感応度の見積もり自体が切り上がっている。ガンマがプラスということだ。 カーブのもう一つの次元 短期金利だけではない。イールドカーブの傾斜が、もう一つの収益源になっている。 いまの日本国債のカーブはG7で最もスティープだ。10年債2.15%、30年債3.4%。40年債は1月に4.24%をつけた。政策金利0.75%との差は歴史的な水準にある。 このカーブが誰に有利で誰に不利かは、持っている債券の年限で決まる。 生保はきつい。ゼロ金利時代に買い込んだ低クーポンの超長期国債が重荷になっている。日本生命や明治安田生命がデリスキングに動いているのは、2025年4月に入った経済価値ベースのソルベンシー規制(J-ICS)で、30-40年ゾーンの利回り変動がバランスシートに直撃するようになったからだ。 メガバンクは違う。みずほの国債ポートフォリオの平均残存期間は1.8年。三菱UFJは1.1年。短い。満期が来れば高い利回りの新発債に乗り換えるだけだ。含み損も限定的になる。 ここに転換の兆しがある。三菱UFJのCFO室長は2月の決算会見で「長期金利がピークをつけつつある兆候を見て、慎重に国債ポジションを再構築する」と言った。三井住友も「市場の見通しを踏まえつつ、徐々に国債保有を増やす」としている。 短期債から中長期債へのシフトが始まれば、NIMのガンマにもう一段効いてくる。政策金利の感応度に加えて、ポートフォリオの利回り自体が底上げされるからだ。三井住友の決算資料には「短期国債から中長期国債へのシフトを戦略的に進め、将来の国債ポートフォリオ再構築による上振れ余地がある」とある。 含み損の話 「銀行だって国債の含み損を抱えているだろう」という反論はある。 そのとおりだ。三菱UFJの含み損は2025年12月末に2,000億円。3月末の400億円から5倍になった。地銀セクター全体では213億ドルに上る。 ただし文脈がある。三菱UFJは9-12月に長期債を売却して損失拡大を避けたと言っている。能動的にリスクを管理している。2,000億円という数字も、2.1兆円の利益見通しに対しては10%未満だ。保有目的なら満期で額面償還される。そもそもポートフォリオの平均残存期間が1-2年なのだから、カーブ全体が上がっても影響は限られる。 地銀の含み損はまた別の問題で、深刻かもしれない。ただ、地銀の苦境がメガバンクのバリュエーションまで抑えているなら、それは市場が違う業態をひと括りにしている結果だ。 資本の使い方が変わった 利益構造だけではない。 三菱UFJは2025年度に5,000億円の自社株買い。過去最大だ。みずほ3,000億円、三井住友1,500億円。3社で9,500億円が株主に戻る。東証改革がROE向上を求めた圧力は、銀行にも効いている。 持ち合い株式の売却加速も大きい。三井住友は上半期だけで1,960億円の売却益を出した。一過性ではない。東証の圧力が続く限り、数年単位で出てくる利益だ。 誰が買っていて、誰が買っていないか 外国人投資家は10週連続で日本株を買い越した。直近週は9,739億円。前の週の倍だ。 一方で、毎月の給料からeMAXIS Slim全世界株式に積み立てている人たちは、三菱UFJも三井住友もみずほも、自分のポートフォリオの上位には入っていない。海外の機関投資家が日本のメガバンクを買い増している横で、日本の個人投資家はその銘柄を含まないインデックスに資金を流し続けている。 どちらの判断が正しかったかは、数年後に分かる。 本記事は公開情報に基づく筆者個人の分析メモであり、投資助言ではない。投資判断は自身の責任で行うこと。