三重苦の計算:ホルムズが閉じた日本で消費は伸びるか

エネルギーが高い。金利も上がる。原材料も上がる。この三つが同時に進行するなかで、個人消費が伸びる経路があるのか。ない。消費が伸びないなら何が日本の成長を支えるのか。それもない。 筆者はこれまで日本株に強気だった。賃金上昇、デフレ脱却、企業統治改革。その見立て自体を全面的に撤回するわけではない。だが「新しい日本」の物語が国内消費にまで及ぶという期待には、データが明確にNoと言っている。消費税と財務省の構造的問題については別稿で書いた。本稿ではマクロデータと企業業績への波及を追う。 エネルギーコストの現在地 4月1日、政府の電気・ガス代補助金が終了した。2022年から断続的に続いた補助は、累計で13.4兆円に達していた。その緩衝材がなくなる。 電力各社は液化天然ガス(LNG)調達コストの上昇分を小売料金に転嫁する。世帯あたりの電気代は月額1万5000円程度の上昇が見込まれている。ガソリンは政府がリッター170円に上限を設けたが、補助の原資は国債だ。政府債務はGDP比235%。財政で消費者を守る余力は限界に近い。 背景はホルムズ海峡の事実上の閉鎖だ。4月8日に停戦が合意されたが、翌9日時点でイランは依然として通航を制限している。日本の原油輸入の94.2%は中東から、うち73.7%がホルムズ海峡を経由する。ロシアからの調達を減らした結果、中東依存度はむしろ96%まで上昇していた。 高市首相は3月16日に戦略石油備蓄から8000万バレルを放出。備蓄は254日分から約230日分に減り、5月にも追加放出を検討している。補助は切れ、備蓄は減り、海峡は開かない。 金利が上がる 日銀は3月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%に据え置いた。1995年以来の高水準だ。植田総裁は4月の利上げの可能性を排除しなかった。元日銀チーフエコノミストの関根敏隆氏も4月利上げを支持している。次の決定会合は4月27-28日。 日銀のロジック:原油高が消費者物価指数(CPI)を押し上げ、春闘の名目賃上げ率は連合第1次集計で5.26%、実質金利はなお大幅にマイナス、正常化の継続は正しい。 だがこのロジックには穴がある。原油高によるCPIの上昇は需要拡大ではなくコストプッシュだ。日銀は「賃金から物価への二次的効果がある以上、利上げは正当化される」と主張する。確かに賃金は上がっている。だがその5.26%の名目賃上げがCPI3%超と電気代の跳ね上がりに食われ、実質購買力が改善しない限り、二次的効果の議論は的を外している。供給ショックに利上げで対応すれば需要をさらに冷やす。2000年のゼロ金利解除、2006-07年の利上げ局面と構図は同じだ。しかも今回は供給ショックの原因が外生的で、悪化している。 原材料が足りない ホルムズ海峡は世界の尿素輸出の約30%、アンモニア輸出の20-30%が通過する。日本の石油化学産業の急所はナフサだ。アジアのナフサの60-70%がホルムズを経由し、日本と韓国の石化メーカーは数週間分の在庫しか持たない。複数の石化企業が減産を発表した。 日経によれば、燃料油やディーゼルの調達難は工場だけでなく銭湯にまで広がっている。日産とトヨタが減産に入った。製油所の稼働率は設計能力の67.7%まで落ちた。 4月13日にはTOTOがユニットバスとシステムバスの新規受注を停止した。天井や壁に使われるフィルム接着剤、コーティング剤に含まれる有機溶剤が不足しているためだ。有機溶剤の原料はナフサである。再開時期は未定。タカラスタンダード、リクシルも供給への懸念を表明し、TOTO株は一時8.8%下落した。風呂の接着剤が足りないから浴槽が売れない。サプライチェーンはそこまで具体的に壊れている。 実質賃金の計算 2025年の実質賃金は前年比マイナス1.3%。4年連続のマイナスだ。2026年1月にようやくプラスに転じたが、第一生命経済研究所の新家義貴氏は、原油が100ドルを超える水準で長期化すれば2026年度の実質賃金は再びマイナスに転落すると指摘していた。ブレント原油はすでに104ドル台をつけた。 春闘の名目賃上げ率は5%台。だがCPIが3%を超え、電気代が10-30%上がり、ナフサ由来の消費財価格が上昇するなかでは、実質可処分所得はフラットからマイナスだ。消費はGDPの約55%を占める。その消費が伸びないなら、輸出か設備投資で支えるしかないが、輸出は製造業のマージン圧縮、設備投資は日銀自身が認めるように人手不足と資材コスト上昇が足かせになっている。 G7で最も深い傷 三重苦はグローバルな現象だ。だが痛みの分配は均等ではない。ゴールドマン・サックスは原油110ドル前提で米GDP成長率見通しを0.3ポイント引き下げ、2.2%とした。年間6500億ドル規模のAI設備投資がGDP比2%の成長下支えとして機能する。FRBは少なくとも利上げはしていない。欧州はLNG供給途絶に苦しむが、2022年のロシア危機後にガス供給を分散させた経験がある。 日本だけが三つの条件を同時に満たしている。エネルギー輸入の集中度が先進国で最高、中央銀行が利上げ方向にあるのは日銀だけ、財政余力がGDP比235%の債務で最も乏しい。英エネルギー分析機関ゼロカーボン・アナリティクスのエネルギー供給途絶リスクスコアは日本が主要国中最高の6.4。韓国5.3、インド4.9、中国4.4。G7のなかで脆弱性が突出している。 企業業績の下方修正はこれからだ 2025年12月時点の市場コンセンサスを振り返る。ジャナス・ヘンダーソンはTOPIX構成企業について二桁の1株当たり利益(EPS)成長を予想。バンク・オブ・アメリカは年末のTOPIX3,700、日経平均55,500。大和はTOPIX3,750。いずれもホルムズ閉鎖を織り込んでいない。 日経平均は2月末の最高値から10%超下落し、テクニカルな調整局面に入った。だがここまでの下落はポジション解消と原油の恐怖が主因であり、アナリスト予想の本格的な切り下げはこれからだ。 ブルームバーグは4月12日、TOPIX500構成企業のうち直近1週間で113件の業績予想が下方修正されたと報じた。下方修正が上方修正を上回ったのは昨年7月以来だ。シティグループの業績修正指数(日本)は3月末に0.16まで低下。数週間前の0.42からの急落である。化学・素材セクターでは主要企業の約4割が業績見通しを下方修正した。 だがこれはまだ序章だ。化学・素材・運輸・自動車はエネルギーコストの直撃を受けて修正が始まったが、次の波は小売・外食・不動産だ。光熱費上昇がサービス業のマージンを圧迫する効果、円安の輸入コスト押し上げ、消費の三重苦から来る需要減退。これらは4月下旬から5月のガイダンスシーズンで初めて数字に表れる。 2008年のリーマン・ショック時、日本のGDPは年率12.1%のペースで縮小し、TOPIXは高値から61%下落した。今回は金融危機ではなくエネルギー危機だが、ダラス連銀の試算ではホルムズ閉鎖が3四半期続けば原油は132ドルに達する。その場合、TOPIX構成企業の二桁減益は現実的なシナリオだ。 ガイダンスシーズンに向けて 危機前のコンセンサスが二桁増益。実際に着地しそうなのは横ばいか一桁台前半。海峡が閉じたまま第2四半期に入れば減益もあり得る。市場の10%の調整は、危機前コンセンサスの二桁増益が横ばいに着地すると仮定した場合、想定されるEPS修正幅の3分の1程度しか織り込んでいない(筆者の試算)。残りはガイダンスシーズンで来る。 IMFの2026年成長率見通しは0.8%。エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は海峡閉鎖が長期化すればGDP3%の縮小もあり得ると指摘した。仮に明日ホルムズが完全に開いたとしても、備蓄の消耗、サプライチェーンの断裂、補助金に投じた財政資金はもう戻らない。 エネルギーコスト、金利、原材料。三つとも上がっている。三つとも、ホルムズ海峡が開かない限り反転しない。日銀が利上げを撤回しても、エネルギーと原材料のコストが消費を圧迫し続ける。日銀が利上げを強行すれば、借入コストがさらに上乗せされる。この計算が変わるまで、日本株の下方修正リスクは続く。 海外投資家は日本の消費関連株に長年弱気だった。正しかった。「新しい日本」の物語のなかで、賃金上昇とインフレがようやく消費セクターにも追い風になるという期待が一部にあった。三重苦はその期待を潰すはずだ。金融株は利上げの恩恵を受けている。半導体装置や防衛は海外需要で回る。だが人口が毎年90万人ずつ減り、実質賃金が4年連続マイナスで、原油輸入の94%をホルムズ海峡に依存し、投入コストが上がり続ける国の消費で業績が決まる株を、ここで強気に転じる理由はどこにもない。 GDPの55%を占める個人消費は、日本株にとって壁のなかのカビのようなものだ。三重苦はカビの繁殖を加速させるかもしれない。だが仮にホルムズが明日開いたとしても、カビが消える見通しはない。壁紙を貼り替えても(補助金)、換気を良くしても(賃上げ)、湿気の原因(財務省、消費税、人口減少)を断たない限り、カビは戻ってくる。それが日本の消費セクターの現実だ。 消費が構造的に伸びない理由は三重苦だけではない。財務省と消費税の構造的問題についてはシュリンクフレーション国家で書いた。 — 玉露 本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断は読者自身の責任で行われたい。

2026年4月14日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)

ふるいにかかる市場

本稿は2部構成の第2部。第1部は2026年6月のコード改訂と126兆円の現預金問題を扱った。 第1部は改訂ガバナンス・コードの中身を論じた。企業に現預金の有効活用を実証するよう求める内容だ。本稿は、従わない企業に何が起きるかを追う。 圧力は二つある。一つは構造的なもの、2028年7月までに約500社をTOPIXから除外する複数年にわたるインデックス再編だ。もう一つは行動的なもの、2025年の株主総会シーズンに過去最多の399件の株主提案を提出し、改訂コード施行直後の2026年シーズンに備えるアクティビストと機関投資家の動きである。 この二つが圧力を形成する。コードを無視する企業は「遵守か説明か」の枠組みの中で市場の目にさらされる。指数を無視する企業はTOPIX連動の大規模パッシブ資金による機械的な売りに直面する。両方を無視する企業は取締役選任の否決に直面する。 TOPIXの再編 TOPIXは日経平均ではない。広範な市場ベンチマークであり、歴史的に旧東証一部に上場するすべての内国普通株が自動的に構成銘柄となった。ピーク時には2200銘柄超。その結果、規模が小さすぎ、流動性が乏しすぎ、ガバナンスが脆弱すぎて機関投資家の保有を正当化できない銘柄を数百含む、薄く無選別な指数が生まれた。 改革は2段階で進められている。 第1段階は2022年から2025年1月まで実施された。浮動株調整後時価総額100億円未満の企業は指数ウェイトが段階的にゼロに引き下げられた。構成銘柄数は2200超から約1700に減少した。指数全体の特性への影響は軽微だった(除外された銘柄は小さすぎた)が、シグナルの意味は大きかった。TOPIX構成銘柄の地位が自動的なものから条件付きのものに初めて変わったのだ。 第2段階は2026年10月に始まり、2028年7月まで続く。ここで再編は実質的な意味を帯びる。選定基準は浮動株調整後時価総額と年間売買回転率に移行する。プライム、スタンダード、グロースの全市場が対象となるが、水準は高い。JPX総研は構成銘柄数が約1200に減少すると見込んでいる。 仕組みが重要だ。最初の定期入替(基準日:2026年8月最終営業日)で除外される企業は、2026年10月から2028年7月にかけて四半期ごとの8段階でウェイトが引き下げられる。移行係数が100%から12.5%ずつ0%に漸減する。一気に落ちるのではなく、2年かけてじわじわとウェイトが削られていく。TOPIX連動のパッシブファンドがこれらの銘柄を機械的に売却していく。 境界線上の企業にとってインセンティブは明確だ。浮動株を増やすか(政策保有株の解消や大株主に売却を促すか)、流動性を改善するか、それともTOPIX連動のパッシブファンドが体系的に株を売るのを傍観するか。大和総研は、境界線付近の企業が指数残留のために政策保有株の処分と株主還元策を前倒しすると予想している。 上場廃止の流れ TOPIXの再編とは別に、だが同じ圧力を強化する形で、東証の上場維持基準の経過措置が2025年3月に終了した。旧制度下では、2022年以降の厳格化された上場基準を満たさない企業に猶予期間と改善計画が認められていた。その猶予は終わった。 基準未達の企業が辿るタイムラインは厳しい。期末基準日で上場維持基準に適合しない場合、1年間の改善期間(売買高基準は6カ月)に入る。改善期間終了後もなお未達であれば「監理銘柄」に指定され、次いで「整理銘柄」、そして上場廃止(監理銘柄指定から通常6カ月以内)となる。廃止後の代替取引市場は整備されていない。 2024年には94社が上場廃止となった。上場企業の総数が純減した初めての年だった。2025年はさらに加速し、東証の山道裕己CEOはブルームバーグに対し125社が廃止、2026年もすでに16社が発表済みと明かした。改善計画が2026年3月1日以降の最初の基準日を超える企業は、東証の公開監視リストに掲載されており、計画終了時に基準未達であれば監理銘柄指定に直面する。 TOPIX再編と上場廃止制度の複合効果は、市場が自ら縮小し、質で選別される方向に動いているということだ。忍耐強い投資家にとって、これは欠陥ではなく機能である。除外される銘柄はまさに全体のROEを押し下げ、資本リターンを希薄化させてきた銘柄だ。小さくなった高品質のTOPIXは、残る全員に恩恵をもたらす。 株主総会という戦場 二つ目の圧力は機械ではなく人間が加える。 2025年6月の株主総会シーズンでは、114社に対し399件の株主提案が提出された。4年連続の過去最高だ。うち146件はアクティビストを含む機関投資家からのものだった。提案の性格も変わりつつある。増配や特別自社株買いといったバランスシート関連の要求は引き続き多いが、取締役会の構成変更、取締役選任、不採算事業からの撤退要求といった経営体制そのものに踏み込む提案が勢いを増している。 直近2シーズンの3つの事例が、その刃の鋭さを示す。 太陽ホールディングス。 オアシス・マネジメントが社長の解任を提案した。太陽HDの筆頭株主であり取引先でもあるDICが、総会前に社長再任に反対する意向を公表した。事業パートナーがこれほど公然と造反するのは極めて異例だ。社長再任の賛成率は46.09%にとどまり否決された。オアシスの解任議案は49.90%の支持を得た。現職の社長が株主投票で退任し、しかも自社の筆頭株主が反対票を投じたのである。 ダイドーリミテッド。 国内アクティビストのストラテジックキャピタルが、11期連続で営業赤字を計上していた企業に3名の取締役候補を擁立し、いずれも過半数の支持を得て選任された。新取締役の就任後、ダイドーは増配と自己株式取得の計画を公表した。アクティビストは議決で勝っただけでなく、議決が企業を変えた。 フジ・メディア・ホールディングス(FMH)。 経営陣は「相談役」制度の廃止を提案した。退任した経営幹部が説明責任を負わないまま影響力を保持する旧来の仕組みだ。株主はこれを承認した。2日後、FMHは元社長を報酬付きの新設「アドバイザー」に再任したと開示した。「相談役」の肩書は消えた。実態は残った。グラスルイスは、FMHの改革が真の変革なのか既存慣行の看板替えにすぎないのか疑問を呈した。 3事例に共通するパターンがある。アクティビストはもはや経営陣に無視される存在ではない。国内の機関投資家を含む機関株主がアクティビストとともに経営陣に反対票を投じている。抵抗の社会的許容範囲は狭まった。 自社株買いも並行して加速している。いちよし証券によれば、2024年の自社株買い決議額は前年の9.6兆円からほぼ倍増し18.0兆円に達した。2025年度も12月末時点で14.2兆円に達し、5年連続の過去最高更新が見込まれている。 FTの問題 2026年1月、フィナンシャル・タイムズが現局面を端的に言い表す見出しを打った。「日本のアクティビスト、新しい問題に直面——成功」。 的確な観察だ。アクティビズムが文化的タブーだった頃、アクティビストの課題は誰にも聞いてもらえないことだった。機関投資家がアクティビスト提案を日常的に支持し、経営陣が建設的に対話し、株主投票が実際に経営者を解任するようになった今、課題は変わった。「アクティビズムは日本で機能するか」ではなく「機能した後、企業と市場に何が起きるか」が問われている。 今のところ答えは、好循環が加速しているということだ。アクティビスト圧力が自社株買いと政策保有株の処分を誘発する。処分は浮動株を増やし、TOPIX適格性を改善する。自社株買いは純資産を圧縮し、ROEを引き上げる。ROEの向上は海外機関投資家の資金を呼び込む。海外資金がガバナンスへの期待をさらに高める。この好循環が続いている。 2026年6月の株主総会シーズンが試すもの 2026年の株主総会シーズン(3月期決算企業が集中する6月下旬)は、改訂コーポレートガバナンス・コードの下で初の総会シーズンとなり、同時に2026年5月1日施行の共同対話の適用除外が有効になった後の初シーズンでもある。いずれの変更も、協調的圧力のハードルを下げる。 2023年・2024年に定型的な資本効率計画を公表しながら具体的成果を示してこなかった企業は、より厳しい聴衆に臨む。改訂コードは現預金の有効活用の実証を求める。スチュワードシップ・コードは投資家に企業への説明責任を追及するよう促す。法的枠組みは共同保有者開示を発動させずに投資家の協調を可能にする。そしてTOPIX再編の最初の銘柄選定は2026年8月のデータを用いる。境界線上の企業にとってハードデッドラインだ。 日本を注視する投資家にとって、2026年6月の株主総会シーズンは、10年をかけて構築された制度的インフラ(2014年のスチュワードシップ・コードから2023年の東証指示、2026年のコード改訂へ)が成果を出すか期待を裏切るかの分岐点だ。実績はこれが機能していることを示唆している。株主提案の4年連続記録更新、株主投票による現職社長の退任、年間20兆円超と見込まれる自社株買い。改革が失速している市場の姿ではない。 6月の確定日が近づくにつれ、コード改訂に関する報道は増えるだろう。日経、FT、ブルームバーグはこれまでの経過をすでに報じている。総会シーズンに入れば、議決権行使の結果やアクティビストの採点が新たな報道の材料になる。 圧力がどこに集中しているか 2026年3月時点で、TOPIX構成銘柄のうちPBR1.0倍未満は約35%。各社の直近四半期決算短信と市場価格に基づく集計だ。JPXが公表する2026年2月のセクター別データでも、プライム市場で銀行、鉄鋼、金属製品など5業種の平均PBRが1.0倍を下回っている。 比率は企業規模で大きく異なる。TOPIX Core30ではほぼすべてがPBR1.0倍超。TOPIX Small 2では約半数が1.0倍割れだ。第1部と本稿で論じたガバナンス改革は、まさにそのロングテールに照準を合わせている。 PBR1.0倍割れが最も集中するセクターは、銀行(TOPIX上場行の約4分の3がPBR1.0倍未満)、鉄鋼、電気・ガス、金属製品、輸送用機器だ。中堅製造業(化学、機械、自動車部品)はPBR1.0倍割れの絶対数が最も多い。 自分でスクリーニングしたい読者のために。ブルームバーグ、ロイター、TradingView、Yahoo Finance、株探(kabutan.jp)のいずれでもPBRで絞り込める。ROICは手計算が必要になることもある。営業利益(税引き調整後)を投下資本で割り、四半期決算短信から算出する。JPXはTOPIX構成銘柄リストと浮動株データを毎月公表している。 一つ注意がある。2024年末から2025年にかけての大量株式分割が、多くの公開データソースでPBRの計算を壊している。分割調整済みの株価を未調整の簿価で割ると意味のない数値が出る。直近の四半期決算短信で必ず検算してほしい。 本ブログは個別銘柄を挙げない。日本株への関心は尽きないが、コンプライアンス部門はない。スクリーニングは誰でもできる。優位性は定性的なところにある。どの企業が変わりそうか、どのアクティビストが動いているか、どの改善計画に経営陣が無視できない期限が付いているか。 玉露は「煎がきく」お茶とも言われ、2煎目・3煎目になっても豊かな味わいを楽しめるのが特徴。2煎目は70〜80℃がおすすめだ。 — 玉露

2026年3月21日 · 1 分 · Gyokuro (玉露)

なぜ今、日本株なのか:データが示すオルカン一択の盲点

「NISAでオルカンを積み立てておけば大丈夫」 SNSやYouTubeで、まるで正解のように語られている。だが本当にそれだけで十分か。 筆者は2026年以降、日本株がグローバル指数を中長期的に上回る可能性が高いと考えている。その根拠を、データ、マクロ環境、制度改革、政治環境の四つに分けて書く。 データが語っていること 下のチャートは、過去5年間の主要株価指数を比較したものだ(スタート地点を100に揃えている)。 TOPIXは約200に達した。S&P 500、NASDAQ、DAX、上海総合のいずれよりも高いリターンだ。 意外だろうか。日本の投資メディアでは「米国株最強」「オルカンで世界に分散すれば安心」という論調が支配的で、日本株の好調さはほとんど話題にならない。 ここで一つ押さえておくべき事実がある。オルカン(eMAXIS Slim全世界株式)の構成比率は約60%が米国株だ。「世界中に分散しているつもり」でも、実態はかなりの部分を米国に集中投資している。そしてその米国株が、過去5年でTOPIXに負けている。 新FRB議長と為替リスク 2026年1月30日、トランプ大統領は次期FRB(米連邦準備理事会)議長にケビン・ウォーシュ氏を指名した。元FRB理事(2006〜2011年)で、リーマン・ショック時にバーナンキ議長のもとで危機対応にあたった人物だ。モルガン・スタンレーの投資銀行部門出身、現在はスタンフォード大学フーバー研究所のフェロー。 背景を押さえておく必要がある。 ウォーシュ氏の義父はロナルド・ローダー氏。エスティ・ローダー創業家の一族であり、共和党の大口献金者だ。トランプ大統領とはペンシルバニア大学ウォートン校の同窓で、長年の友人・側近とされている。この関係から、ウォーシュ氏がトランプ政権と対立的な姿勢を取る可能性は低いと市場は見ている。 さらに重要なのはウォーシュ氏自身のスタンスの変化だ。かつてはタカ派として知られていたが、最近は利下げを支持する発言を繰り返している。2025年7月のCNBCのインタビューでは「利下げは正しいバランスに戻すためのプロセスの出発点だ」と述べた。ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿では、AIによる生産性向上がデフレ圧力をもたらすと指摘している。 米国が利下げサイクルに入る可能性は相当程度高まっている。 利下げが進めば日米の金利差が縮小し、為替は円高ドル安に動きやすくなる。NISAで海外株式ファンドを持っている場合、ここが盲点になる。オルカンなどのグローバル株式ファンドはドルなどの外貨建てで運用されている。円高が進むと、ファンドの価値がドルベースで横ばいでも、円に換算したリターンは目減りする。 過去5年ですでに米国株はTOPIXに劣後している。そこに円高が重なれば、差はさらに広がる。 多くのNISA解説ブログやYouTubeチャンネルは、この為替リスクにほとんど触れていない。「長期で持てば為替の影響は平準化される」という意見もあるが、5年から10年の単位で円高が続いた時期は過去に何度もある。 日本企業が変わり始めている 東京証券取引所は、プライム市場に上場する企業に対して、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの改善を要請した。「会社の価値をもっと高めろ」というメッセージだ。 アクティビスト(物言う株主)の活動も活発化している。海外ファンドだけでなく、国内の大手機関投資家もスチュワードシップ・コードに基づいて企業に「もっと株主に利益を還元しろ」と働きかけるようになった。 結果として、配当増額と自社株買いが急速に広がっている。しかもその伸びは企業の利益成長を上回るペースだ。 こうした動きが経営の質そのものを根本から変えたかどうかは、まだわからない。だが少なくとも確実に言えることがある。企業の意識は変わった。株主還元に対する姿勢は明らかに前向きになっており、この流れが後退する可能性は低い。 東証の要請やコーポレートガバナンス・コードといった制度的な枠組みが整備されている以上、企業が「株主を意識しなくてよかった時代」に戻ることは難しい。株主還元の改善トレンドは今後も続く。その蓋然性は十分に高い。 投資家にとっての意味は明快だ。配当利回りの向上と自社株買いによる一株あたり利益(EPS)の押し上げが、株価の下支え要因になる。 高市政権の積極財政 2026年2月8日の衆院選で、高市早苗首相率いる自民党は316議席を獲得した。戦後初めて単独で衆院の3分の2以上を占める歴史的圧勝だ。中曽根政権の300議席(1986年)、小泉政権の296議席(2005年)を上回る。 政権基盤は圧倒的に安定した。参院で否決された法案を衆院で再可決する力を持ち、政策の実行力は大幅に強化されている。 注目すべきは「責任ある積極財政」という基本方針だ。行き過ぎた緊縮財政から転換し、積極的な財政支出で経済成長を促す路線を意味する。物価高対策と家計支援(電気・ガス代やガソリン代の負担軽減、ガソリン税の旧暫定税率廃止、所得税の基礎控除引き上げ)、AI・半導体、造船、量子技術、宇宙、海洋資源などの重点分野への大規模投資、財政支出21.3兆円の2025年度補正予算——「積極財政により国力を強くする」と首相自身が明言している。 金融政策については、政府と日銀の連携を重視する姿勢だ。第一生命経済研究所のレポートによれば、需要超過の状態を維持することで供給力の拡大を促す「高圧経済政策」を志向しているとされる。極端な日銀への圧力は考えにくいが、利上げペースに対してはブレーキがかかりやすい環境と言える。 株式市場にとってのポイントは三つある。 政権の安定性。衆院で圧倒的多数を確保したことで、政策の継続性と予測可能性が大幅に高まった。海外投資家が日本株を評価する際の重要なプラス材料だ。 財政出動の規模。成長分野への大規模な政府投資は、関連企業の収益を押し上げる。 金融緩和的な環境の維持。利上げのペースが緩やかにとどまることで、企業の資金調達コストが抑えられ、株式市場にとっては追い風になる。 高市首相自身も「為替変動にびくともしない日本をつくる」と発言しており、国内投資の強化による内需主導の成長路線を明確にしている。 オルカン一択で、本当にいいのか 分散投資が大切であることに変わりはない。一つの国や地域に集中しすぎるのはリスクだ。 だが「オルカンだけ買えば安心」と思い込んでしまうのは、もったいない。 過去5年のパフォーマンスデータ、新FRB議長のもとでの米国利下げと円高リスク、日本企業の株主還元の加速、高市政権の積極財政。こうした要素を踏まえると、ポートフォリオの中で日本株の比率を見直す価値は十分にある。 — 玉露

2026年2月27日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)

外国人投資家が日本株に再注目している背景:プロのマネーが語る5つの理由

はじめに:海外のプロが「日本株を買う」と言っている 個人投資家の多くがNISAでオルカンやS&P 500を積み立てている一方で、面白い動きが起きている。 世界最大級の資産運用会社や投資銀行が、そろって日本株に対して強気な見通しを出しているのだ。 ゴールドマン・サックス、JPモルガン、ブラックロック、ジャナス・ヘンダーソン、インベスコ、大和アセットマネジメント。これだけの名前が並ぶと、偶然とは言えない。 実際に、2025年の第2四半期以降、外国人投資家による日本株への資金流入は約13.5兆円に達し、TOPIXが3,000、日経平均が50,000円をそれぞれ初めて突破する原動力になった。 この記事では、海外のプロ投資家がなぜ今、日本株を選んでいるのか、その理由を5つに整理してお伝えする。 理由① デフレからの脱却:30年ぶりの「インフレ定着」 日本経済にとって最も大きな構造変化は、30年以上続いたデフレからの脱却だ。 JPモルガンは、日本がインフレ率2%以上を4年連続で維持していることを指摘し、これが「30年以上で最も長い期間」であると述べている。 なぜこれが株式市場にとって重要なのだろうか。 デフレ下では、モノの値段が下がり、企業は値上げができず、利益率が圧迫される。消費者は「待てば安くなる」と考え、お金を使いない。この悪循環が、日本企業の低収益性の根本原因だった。 それが今、変わりつつある。企業は値上げができるようになり、利益率が改善している。賃金も上昇し、消費が回復している。ゴールドマン・サックスのレポートによれば、日本企業のEPS(一株あたり利益)成長率は、2008年から2019年までの年率約2%から、直近では年率8%に加速している。 つまり、日本企業の収益力そのものが構造的に改善しているのだ。これは一時的なブームではなく、デフレ脱却という30年ぶりの環境変化に裏打ちされた変化だ。 理由② コーポレートガバナンス改革の「次のフェーズ」 前回までの記事でも触れてきた東証のPBR1倍割れ是正の要請やアクティビストの台頭。海外の投資家は、これらの動きを非常に高く評価している。 特に注目されているのは、2026年に予定されているコーポレートガバナンス・コードの改訂だ。IFA Magazineのレポートによれば、次の改訂では以下の点が強化される見込みだ。 戦略的な資本配分:企業が現金や内部留保をどう使っているかの説明を求める 透明性の向上:政策保有株(持ち合い株式)の目的の明確化と、最終的な受益者の開示 原則ベースのアプローチの再確認:形式的な対応ではなく、自社のガバナンスの考え方を説明する姿勢を求める 具体的な数字も印象的だ。日本企業の自社株買いは2025年に約18兆円に達する見通しで、これはコロナ前の2倍以上の水準だ。配当も5年連続の増配が見込まれている。平均ROE(自己資本利益率)は8.4%から9%に改善している。 ある運用会社のコメントが、この変化を端的に表している。「10年前の日本企業と今の日本企業はまったく別物だ。効率性と透明性が格段に向上し、株主利益との整合性が明確になった」。 理由③ 「米国集中リスク」からの分散先としての日本 これは個人投資家にとっても重要な視点だ。 S&P 500は過去数年間、驚異的なリターンを叩き出してきた。しかし、その裏側には深刻な集中リスクがある。S&P 500の上位10銘柄が指数全体の30%以上を占めており、テクノロジーセクターへの依存度が極めて高い状態だ。 ブラックロックは、2025年に日本株ETFへのオーストラリア投資家からの資金流入が前年の3倍に達したことを報告している。その背景として「米国市場の集中度への不安から、投資家が新たな成長機会を探している」ことを挙げている。 JPモルガンも、日本株に対する見通しの中で「国際投資家・国内投資家ともに、日本株へのポジションはまだアンダーウェイト(配分不足)の状態にある」と指摘している。つまり、まだ資金流入の余地が大きいということだ。 日本の株式市場は時価総額で約7.9兆ドル(約1,234兆円)。世界第3位の規模を持つにもかかわらず、グローバル投資家のポートフォリオにおける比率はまだ低い水準にとどまっている。この「アンダーウェイト解消」の動きが進めば、それ自体が日本株の上昇要因になる。 理由④ 高市政権の「サナエノミクス」への期待 海外投資家にとって、日本の政治リスクが低下したことも大きなプラス材料だ。 インベスコのレポートは、2025年10月の高市首相就任後、「外国人投資家が日本株に回帰し、市場の熱狂が高まった」と記している。高市政権の経済政策は海外では「サナエノミクス」とも呼ばれ、注目を集めている。 具体的には以下の点が評価されている。 積極財政:2025年度補正予算21.3兆円の経済対策。AI・半導体・宇宙・量子技術など成長分野への大規模投資 政権の安定性:衆院選での歴史的圧勝(316議席、単独で3分の2以上)により、政策の実行力が大幅に強化 日米関係の安定:トランプ大統領の訪日を含む外交成果 大和アセットマネジメントは「高市政権は追い風となる。成長戦略は特に注目に値する」と評価し、ブラックロックも「強力な財政支援プログラムが国内経済への追い風になる」としている。 政治の安定は、海外投資家が最も重視する要素の一つだ。政策が予測可能であること、長期にわたって一貫した方向性が維持されること。これらは、日本株への長期投資を判断する上で不可欠な条件だ。 理由⑤ 利益成長の加速と割安感 最後に、最もシンプルで重要なポイントを挙げる。日本企業の利益が伸びていることだ。 ジャナス・ヘンダーソンは2026年に日本株が二桁のEPS成長を達成する可能性があるとの見方を示している。輸出セクターの回復、堅調な国内需要、そして利上げによる金融セクターの収益改善が主な要因だ。 ゴールドマン・サックスも、2026年のEPS成長率を8〜9%と予想している。 そして、この利益成長に比べて、日本株のバリュエーション(株価指標)は依然として割安な水準にある。ロード・アベットのレポートによれば、MSCI ACWI(米国除く)のPER(株価収益率)は、S&P 500に対して36%のディスカウント。つまり、利益に対して株価がまだ安いということだ。 利益が伸びている。バリュエーションが割安。ガバナンス改革が進んでいる。政治が安定している。これだけの条件が揃えば、海外のプロが日本株を買うのは当然の判断と言えるだろう。 個人投資家にとっての意味 ここまで読んでいただいた方は、お気づきかもしれない。 海外のプロ投資家が日本株を買っている理由は、このブログで前回までにお伝えしてきた内容とほぼ一致している。 デフレ脱却とインフレ定着 コーポレートガバナンス改革と株主還元 高市政権の積極財政 米国一極集中からの分散 違いがあるとすれば、海外の機関投資家はすでに行動に移しているということだ。日経アジアによれば、2025年通年で海外投資家による日本株の買い越し額は約380億ドル(約5.4兆円)に達し、2013年以来の高水準となった。 個人投資家の多くがまだオルカンやS&P 500に集中している今、日本株に目を向けるということは、プロの投資家と同じ方向を向くことを意味している。 もちろん、プロが買っているからといって必ず上がるわけではない。しかし、世界中の運用会社が同じ方向を指しているとき、その根拠を無視するのはもったいないのではないだろうか。 次回は、ケビン・ウォーシュとは何者か。新FRB議長を読み解く記事をお届けする。 ※本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではない。投資に関する最終的な判断は、読者自身の責任で行っていただきたい。

2026年2月22日 · 1 分 · 玉露 (Gyokuro)