「分散しているから安心」の落とし穴
NISAでオルカン(eMAXIS Slim全世界株式)を積み立てている人は多い。「世界中に分散投資しているから安心」と考えている人も少なくないだろう。
だが一つ確認しておきたい。その資産の通貨構成を見たことがあるだろうか。
オルカンの構成比率は、約63.9%が米国株だ(2025年11月末時点)。資産の6割以上がドル建てで運用されている。残りもユーロやポンドなどの外貨建てが大半を占め、円建ての資産(日本株)はわずか4.9%に過ぎない。
オルカンを持っているということは、資産の約95%が外貨建てだということだ。
「分散」されているのは株式の銘柄や地域であって、通貨リスクはほぼ分散されていない。多くの個人投資家が気づいていないポイントだ。
為替がリターンに与える影響
具体的な数字で見る。
仮にオルカンの基準価額がドルベースで年間10%上昇したとする。一見、良い年だ。だが同じ期間にドル円が155円から130円に円高が進んだ場合はどうなるか。
ドルベースのリターンは+10%。為替の変動は155円→130円で約16%の円高。円建てのリターンは約−8%。
株価は上がっているのに、円建てではマイナスだ。
極端な例ではない。2025年前半、まさにこれに近いことが起きた。米国株の軟調さに円高が重なり、オルカンの基準価額は一時16%以上下落した。ドルベースでの下落幅以上に、円建てでのダメージが大きくなった。
「長期で持てば為替は平準化される」は本当か
為替リスクを指摘すると、よく返ってくる反論がある。「長期投資なら為替の影響は平準化される。気にしなくていい。」
20年、30年の超長期で見れば、為替の上下が均されていく傾向はある。その限りでは正しい。
だが歴史を振り返ると、5年から10年の単位で一方向に為替が動き続けた局面は決して珍しくない。
1985年〜1995年。プラザ合意をきっかけに、ドル円は240円台から79円台へ。約10年間で60%以上の円高が進行した。この間にドル建て資産を保有していた日本人投資家は、株価が上がっていても円建てでは大幅なマイナスを経験している。
2007年〜2011年。リーマン・ショック前の124円台から、東日本大震災後の2011年10月には史上最安値の75円台まで。わずか4年間で約40%の円高だ。
2021年〜2024年。逆に、日米金利差の拡大を背景に110円台から一時161円台まで大幅な円安が進行した。この期間にオルカンを保有していた投資家は、円安による「下駄」を履いた状態でリターンが底上げされていた。
ここが重要だ。過去数年のオルカンの好調なリターンには、かなりの部分で「円安のブースト」が含まれている。今後、円高に転じた場合、同じブーストが逆方向に働く。
2026年以降、円高に向かう構造的理由
為替の予測は誰にとっても難しい。だがいくつかの構造的な変化が起きつつある。
トランプ大統領が次期FRB議長に指名したケビン・ウォーシュ氏は、最近の発言で利下げ支持の姿勢を明確にしている。米国が利下げサイクルに入れば、日米金利差は縮小し、円高圧力が高まる。SBI証券のレポートでも指摘されているが、トランプ政権は貿易赤字削減と国内産業保護のため、ドル安誘導政策を志向する可能性がある。直接的な円高要因だ。日銀も緩やかながら利上げの方向にある。高市政権のもとで急激な引き締めは考えにくいが、政策金利が少しでも上がれば、金利差縮小を通じて円高方向に作用する。
これらが重なれば、中期的に円高が進行する可能性は十分にある。
シミュレーション:円高で何が起きるか
NISAでオルカンを300万円保有しているとする。ドルベースでファンドの価値が年5%ずつ成長した場合、為替レートの違いでリターンがどう変わるか。
3年後のシミュレーション(ドルベース年率+5%の場合):
| 為替シナリオ | 3年後の円建て評価額 | リターン |
|---|---|---|
| 155円のまま(横ばい) | 約347万円 | +15.8% |
| 155円→140円(約10%円高) | 約314万円 | +4.5% |
| 155円→125円(約19%円高) | 約280万円 | −6.7% |
| 155円→110円(約29%円高) | 約246万円 | −18.0% |
ドルベースでは3年間で15.8%成長しているのに、為替次第ではマイナスになる。
「為替ヘッジあり」のファンドを選ぶ手もあるが、ヘッジコスト(現在は日米金利差分で年4〜5%程度)がかかるため、リターンをかなり圧迫する。万能な解決策ではない。
どう考えるか
為替リスクを完全にゼロにすることは、海外資産に投資する限り不可能だ。それでもいくつかの対策は取れる。
最もシンプルなのは、ポートフォリオの中で日本株の比率を見直すことだ。日本株であれば為替リスクがない。前回の記事でも書いたが、過去5年のTOPIXのリターンはS&P 500やNASDAQを上回っている。「日本株はリターンが低い」という先入観は、もう過去のものかもしれない。
円安が大幅に進んでいる局面で大きな一括投資をすると、その後の円高でダメージを受けやすい。積立投資(ドルコスト平均法)を基本にしつつ、一括投資のタイミングには注意を払う価値がある。
そして、為替リスクを「意識する」だけでも意味がある。投資で最も危険なのは、リスクの存在に気づいていないことだ。為替リスクを把握した上でオルカンを持ち続ける判断と、知らずに持っている状態では、何かが起きたときの対応力がまったく違う。
オルカンは悪い商品ではない
長期的な資産形成のツールとして十分に価値がある。それ自体を否定するつもりはない。
だが資産の95%が外貨建てであるという事実は、きちんと理解しておく必要がある。特にこれからの数年間は、米国の金融政策転換やトランプ政権のドル安志向によって、円高が進行する可能性が無視できない。
「オルカンだけで安心」ではなく、為替リスクを理解した上で日本株を含めたバランスの良いポートフォリオを考える。それがこれからの投資環境では重要になる。
次回は、オルカンが連動を目指すMSCI ACWIのパフォーマンスを、S&P 500との比較でバックテストする。
本記事は特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではない。投資判断は自身の責任で行うこと。
— 玉露