2日前、ベッセントは防衛線を守ったが線は細くなったと書いた。火曜日、イランがホルムズ海峡に機雷の敷設を始めた。水曜日、IEAは史上最大の緊急備蓄放出を決定した。4億バレル。ブレント原油は93ドル前後でほとんど動かなかった。
封じ込めは破れた。ベッセントの手段が誤っていたからではない。機雷が問題の物理的な性質を変えたからだ。
機雷が変えたもの
市場はあるシナリオを織り込んでいた。「停戦すれば海峡は再開する」。トランプは「戦争はほぼ完了」と語った。護衛艦が到着する。タンカーが動き出す。原油が下がる。月曜日、日経平均が2.88%反発しブレントが119ドルから88ドルに急落したのは、このシナリオの値付けだった。
機雷はその前提を覆した。ミサイルや無人艇と異なり、機雷は無差別で、持続的で、停戦後も除去に数週間を要する。米海軍は昨年9月にペルシャ湾に配備していた専用掃海艇4隻をすべて退役させており、汎用艦での対応を迫られている。米中央軍は火曜に機雷敷設艇16隻を撃沈、トランプは水曜までに28隻と発表したが、すでに海中に投下された機雷はそのまま残る。
区別は重要だ。市場は「停戦イコール安全な航行」を想定していた。機雷は「停戦イコール安全な航行ではない」ことを意味する。再開の見通しは数日から数週間、場合によっては数ヶ月に延びた。備蓄放出で機雷原は掃海できない。
IEAの4億バレルは、2022年のウクライナ侵攻後の1.82億バレルを大きく上回る史上最大の規模だ。だがマッコーリーのアナリストが指摘したように、世界の日量生産の約4日分、湾岸からの輸送量の約16日分に過ぎない。海峡の閉鎖が1ヶ月続けば、時間は稼げても問題は解決しない。
一方、物理的な供給網は崩壊しつつある。水曜だけで6隻が攻撃を受けた。その中に日本籍のコンテナ船ONE Majestyが含まれている。米海軍は海運業界からの護衛要請を毎日拒否しており、リスクが高すぎると回答している。革命防衛隊の司令官は、海峡を通過する船舶はイランの許可を得なければ攻撃すると宣言した。
日本の本当の脆弱性は石油ではない
原油に注目が集まっている。だが日本にとってより危険なのはLNG(液化天然ガス)だ。
非対称性は明白である。日本の石油備蓄は国内消費の254日分に相当し、世界最大級だ。原油は代替可能でもある。西アフリカや中南米、米国からの調達は喜望峰経由で可能であり、コストは上がるが物理的な不足には至りにくい。
LNGは事情が異なる。専用の極低温ターミナル、専用タンカー、特定施設に紐づいた長期契約が必要だ。日本のLNG貯蔵能力は425億立方フィートと世界最大だが、稼働率は32〜66%の範囲で推移しており、現在の在庫が低位にあれば、実質的なバッファーは月単位ではなく週単位だ。
LNGは日本の電力の約34%を賄っている。単一エネルギー源としては最大だ。これが途絶えれば、起きるのは価格の問題ではない。供給の問題——計画停電、工場の操業停止、金融政策では対処不能な実体経済へのショック——だ。
この2週間でLNGの供給網に何が起きたか。カタール・エナジーは3月2日にラスラファン(世界最大のLNG施設)の生産を停止し、不可抗力(フォースマジュール=天災や戦争など当事者の制御を超えた事態により、契約上の履行義務が免除される宣言)を発した。シェルはカタールLNG契約についてアジアの顧客に不可抗力を通告。トタルエナジーズも続いた。カタールは世界のLNG輸出の20%を占め、そのすべてがホルムズ海峡を経由する。再稼働を決定した後でも、液化プラントの完全復旧には最低2〜4週間を要する。極低温設備の損傷を避けるため、段階的にしか冷却できないからだ。
アジアのスポットLNG市場はすでに逼迫している。インドの入札は不調に終わり、バングラデシュは1月の数倍の価格で緊急調達を余儀なくされた。韓国、台湾、シンガポールのスポット市場への依存度は急速に高まっている。欧州とアジアが限られたカーゴを奪い合い、価格は3年ぶりの高値だ。
日本のカタールへの直接依存度はLNG供給の約5%と比較的低い。だがLNGはグローバルな連結市場だ。世界の供給の2割が消えれば、残りを全員が奪い合う。日本の電力会社——JERA、東京ガス、大阪ガス——は調達可能なカーゴがあればいかなる価格でも買わざるを得なくなる。価格に関係のない、機械的な、生存のための買い。オイルショックで円を弱くしたのと同じ実需フローが、はるかに薄い備蓄しか持たない商品に適用される。
日銀会合まで6日
月曜日に予告した日銀の3月18〜19日の会合は、根本的に異なる文脈の中にある。「不確実性を認め、方向性を再確認する」という基本想定は、原油高が短期で収束することを前提としていた。機雷とLNGの不可抗力は、その前提を揺るがす。
据え置きの上で4月利上げの可能性を残すなら、日銀は海峡の再開に賭けていることになる。より慎重な姿勢を見せるなら、エネルギーコストが第2四半期を通じて高止まりするシナリオを想定し、すでに投入コストの急騰に直面している企業への追加負担を避ける判断だ。
連合の5.94%の賃上げ要求は変わっていない。国内のインフレ根拠は弱まっていない。だが外部環境の制約は、10日前には政策委員の誰も想定していなかった方向に強まった。
市場が織り込んでいるものと、いないもの
ここからが実践的な分析だ。
ブレント先物カーブが市場の見方を語っている。2027年・2028年受渡しは60ドル台後半。市場は90ドル超が一時的だと見ている。正しいかもしれない。だが機雷は再開時期を不確実にし、LNGの途絶は原油価格に関わらず持続する。液化プラントの再稼働には原油とは別の時間軸がある。
シナリオ1:2週間以内にホルムズが再開する。 原油は70ドル台に回帰。カタールが再稼働を開始し、4月末までにLNGは正常化する。日銀は4月か6月に利上げ。銀行・生保の利ざや拡大が再開する。日本の金融株の下落は押し目買いの好機だった。円は緩やかに強含む。先物カーブが織り込んでいるのはこのシナリオだ。
シナリオ2:4月上旬を過ぎてもホルムズが閉鎖されたままである。 LNG備蓄が枯渇に向かう。日本の電力会社は世界中のスポット市場で極端な高値のカーゴを奪い合う。電力コストが急騰し、製造業の操業が制約される。日銀は利上げを無期限に延期。エネルギー輸入コストが経常収支を圧迫し、円安がさらに進む。ベッセントの枠組みは90ドル超の原油持続に耐えきれなくなる。日本株の構造的な追い風テーゼは、数週間ではなく四半期単位で先送りされる。
非対称性。 シナリオ1が実現すれば、押し目で買った投資家は通常の反発リターンを得る。意味のある利益だが、すでに織り込まれている。シナリオ2が実現すれば、特定セクターに集中した深刻な歪みが生じる。市場はシナリオ2を織り込んでいない。機雷とLNGの不可抗力は、先物カーブが示唆する以上にその確率が高いことを示している。
シナリオ2で恩恵を受けるもの。 国内のエネルギー生産者、投入コストの価格転嫁力がある企業。LNGの海運・トレーディング関連。湾岸以外に調達先を分散している電力会社。広範な紛争で既に買われている防衛関連銘柄。
シナリオ2で打撃を受けるもの。 エネルギー多消費型で価格転嫁力のない製造業。航空・運輸。製造業依存度の高い県の地方銀行(利ざや拡大のテーゼ自体は崩れないが、実現の時期が後ろにずれる)。電力料金やガソリン価格の上昇に直面する消費関連。
どちらのシナリオでも恩恵を受けるもの。 規制対応、高市政権の財政支出によるインフラ投資、サイバーセキュリティ、防衛——実需(forced demand)が構造的に存在する企業。これらの製品・サービスへの需要は、原油価格やホルムズ海峡の開閉とは無関係だ。
危機自体が示唆するヘッジ。 金利正常化テーゼで日本の金融株を保有しており、構造的なケースは崩れていないと考えるなら、リスクは時間軸——どれだけ待つかだ。エネルギー関連(総合商社、海運、上流企業)を一部持つことで、正常化の遅延を部分的に相殺できる。金融テーゼの実現を遅らせる危機そのものが、エネルギーヘッジを潤す。同じ力学の裏表だ。
日本籍の船が被弾した
3月12日、日本籍のコンテナ船ONE Majestyがペルシャ湾で不明の飛翔体により船体を損傷した。船主の商船三井が確認している。
日本の読者にとって、これはもはや抽象的な地政学の話ではない。日本の船、日本のエネルギー供給、日本の電力、日本企業の利益率——伝達経路はホルムズ海峡の機雷から名古屋の工場、東京のポートフォリオまで一本でつながっている。
3月19日、日銀は言葉を選ぶ。先物カーブは価格を選ぶ。投資家が問うべきは、そのどちらが、海中にあるものを十分に織り込んでいるかだ。
本記事は公開情報に基づく筆者個人の分析メモであり、投資助言ではない。
— 玉露