10日前、ブレント原油は66ドルだった。月曜日に119.50ドルをつけ、93ドル前後で引けた。日経平均は月曜に5.2%下落した。ドル円は159.14円、財務省の介入ラインとされる水準の目前まで到達した。米10年債利回りは一時4.21%を突破し、4.13%に戻った。

それでも金融システムは壊れなかった。

何をもって封じ込めたのか。円の「安全通貨」としての役割に何が起きたのか。そしてベッセントの制約条件である10年債利回りは、最初のミサイルが発射される前より狭くなっている。

2月の記事で、ベッセントが軍事作戦を経済的な論理に沿って設計した可能性を書いた。イランの石油インフラを温存し、供給側からの解決策を残すという読みだ。この10日間は、その仮説が現実に試される局面だった。

ベッセントが投入したもの

封じ込めの手段は広範で、展開は速かった。

原油供給面では、ロシア産石油の制裁解除を検討中と報じられた。対ウクライナの外交カードを直接削る一手だが、ホルムズ海峡の閉鎖で日量約600万バレルが失われた市場に供給を追加できる。インドとアルゼンチンには制裁免除が与えられた。海峡を通過するタンカー向けに200億ドルの保険制度が発表された。G7財務相が戦略石油備蓄(SPR)の協調放出を協議。日本の経産省は1978年以来初めて備蓄放出の準備を指示した。

言説面では、トランプ大統領がCBSに対し「戦争はほぼ完了」「予定より早い」と語り、ホルムズ海峡の接収を示唆した。原油は日中の高値から25ドル以上下落した。口先介入は荒削りだが効果的だった。長期金利にとって最も危険な瞬間に、原油の勢いを折ったのだ。

金利面では、10年債が月曜に4.21%をつけた後に反落。30年固定住宅ローン金利——ベッセントにとっての真の標的——は3月6日までの1週間で5.99%から6.14%に上昇していた。1月のJGB危機で脅威となった長短金利差の拡大(ベアスティープニング)が再発。30年債利回りは4.77%と、2024年4月以来の水準に達した。FRBの利下げが始まる前に戻った計算だ。

これらの手段はすべて代償を伴う。ロシア石油の制裁解除はモスクワに対する外交圧力を弱める。SPR放出は戦略的な備えを削る。タンカー保険は商業リスクへの公的資金投入にほかならない。海峡接収の示唆は、イランがその言葉を試した場合にエスカレーションを余儀なくされる。口先介入は一度は効いた。二度目も効くかは定かでない。

円の安全通貨神話が崩れた

リスク回避の局面で、円は強くなるはずだった。逆のことが起きた。

ドル円は危機の間に153円台から159.14円まで円安が進んだ。株が下がり原油が上がるすべての取引日で、円は売られた。「世界的なショック→資金が安全資産へ→円高」という教科書的な筋書きが機能しなかったのは、日本がエネルギーをほぼ全量輸入しているからだ。日本の石油の約95%は中東産であり、約70%がホルムズ海峡を通過する。

原油が急騰すると、日本の輸入業者は価格に関係なくドルを買わざるを得ない。この実需のドル買いが、円に対する安全資産としての買いを圧倒した。円は危機にもかかわらず弱くなったのではない。危機だからこそ弱くなった。

一時的な異常ではない。日本のエネルギー依存構造に根ざした特性だ。ペルシャ湾発の原油急騰が将来起きれば、同じ現象が繰り返される。教科書が「円高」と予測するまさにその瞬間に、円は安くなる。

ベッセントにとっては不都合な循環だ。11月の中間選挙までに円高が必要である。だが彼が形作った——少なくともその政策が一因となった——危機が、円を逆方向に押した。ドル円159円は、153円より政治的に悪い。「円の適正水準は120〜130円」と発言した片山金融相も、同じ画面を見ていた。

キャリートレード:ストレス下にあるが、巻き戻しではない

危機の間、SNSには「世界的なマージンコール」「数兆ドルの巻き戻し」という主張が飛び交った。データは異なることを示していた。

円のベーシススワップは−74bpから−18bpに改善した。FRBの翌日物レポは90億ドル。レポ市場に逼迫なし、資金調達の混乱なし、金融の配管に強制清算の形跡なし。株式の売りは苛烈だった——日経平均は月曜に2,892ポイント下落——が、金融システムの管は持ちこたえた。

本格的なキャリーの巻き戻しには円高が必要だ。円の上昇がレバレッジをかけたポジションのカバーを強制し、連鎖的な解消を引き起こす。だが今回、円は弱くなっていた。キャリートレードは時価評価上の損失が膨らんでいたという意味でストレス下にあったが、構造的なポジション——BISの推計で直接的なエクスポージャーが2,610億ドル、デリバティブを含めると4兆ドル超——の85〜97%は無傷だった。

つまりキャリートレードは依然としてリスクとして残っている。ポジションは解消されていない。巻き戻しの真の引き金である持続的な円高を待っている状態だ。ベッセントが望むもの——意味のある円高——が実現したとき、巻き戻しは現実のものになる。イラン危機は、本番の幕が上がらなかったリハーサルだった。

制約条件は狭くなった

ベッセントの枠組みを骨まで削れば単純だ。米10年債利回り→30年住宅ローン金利→住宅取得能力→有権者の実感→2026年11月の中間選挙。

イラン危機前、10年債は4.07%前後で推移していた。月曜に4.21%を一時突破し、4.13%に戻った。封じ込められた。だが「封じ込めた」と「解決した」は同義ではない。

市場は現在、年内のFRB利下げを25bpの1回のみ(9月が有力)と見込む。1週間前は2回だった。90ドル超の原油はインフレ期待を直接押し上げ、FRBの緩和余地を狭める。ホルムズ海峡の実質閉鎖が数日ではなく数週間続けば、原油は高止まりし、物価上昇圧力が持続し、ベッセントが住宅ローン金利を下げるために必要な利下げは延期か中止に追い込まれる。

先物カーブが状況を映している。2027年・2028年受渡しのブレント先物は60ドル台後半。市場は90ドル超が一時的な現象だと見ている。だがベッセントに必要なのは、市場がいずれ正しくなることではない。9月までに住宅ローン金利が下がっていること——有権者が11月の投票行動を固め始める時期だ。

原油が90ドル超にとどまる1週間は、FRBが利下げできない1週間であり、30年住宅ローン金利が6%超に張りつく1週間であり、政権の経済運営に対する支持率——有権者の3分の2が「不十分」と回答している——がさらに悪化する1週間だ。

この先

危機は終結に向かって圧縮されている。トランプは戦争がほぼ終わったと示唆した。プーチンは1時間の電話会談で迅速な解決を提案した。仏中露がイランへの停戦仲介に動いた。イラン軍の能力は大幅に低下している。海軍は壊滅、ミサイル在庫は推定90%減少、海峡閉鎖を維持するための軍事的手段は日を追うごとに縮小している。

楽観的な展開が実現すれば——海峡が数日内に再開し、原油が70ドル台に回帰し、数週間で合意の枠組みが浮上する——ベッセントの当初の構想は生き残る。前回の記事で書いた石油供給の選択肢が現実になる。イラン原油が市場に戻り、地政学的なリスクプレミアムが剥落し、FRBが利下げに動き、金利が下がり、住宅ローン金利が低下し、円は日銀の積極的な引き締めなしに自然と強含む。

だがその時間軸は保証されていない。そして二度目のショックに対応できる手段は少ない。ロシア石油のカードは切った。SPRには手をつけた。口先介入は使った。キャリートレードはストレスを受けたが巻き戻されておらず、潜在的なリスクはそのまま残っている。

ベッセントは防衛線を守った。だが線は細くなった。4.13%と、彼の枠組みが瓦解する水準との距離は、もはやパーセントではなくベーシスポイントで測る世界だ。

日本株を見ている投資家にとって

日銀は3月18〜19日に金融政策決定会合を開く。0.75%据え置きが大方の予想だが、声明文の言葉遣いがシグナルになる。「エネルギー市場の影響を注視する」であればオイルショックが利上げ猶予を買ったことを意味し、「賃金に主導された基調的な物価動態に変わりはない」であれば4月利上げがなお選択肢に残っていることを示す。

連合の春闘賃上げ要求は5.94%。数十年ぶりの強さだ。実質賃金は13ヶ月ぶりにプラスに転じた。正常化を支える国内要因は弱まっていない。変わったのは外部環境であり、日銀がホルムズ危機を一時的な供給途絶と見るか構造的な物価環境の変化と見るかが、年内の利上げペースを左右する。

日本株にとって、この2週間の値動きは示唆に富む。日経平均は月曜に5.2%下落し、火曜に原油が反落すると2.88%反発した。市場は企業のファンダメンタルズではなく原油をトレードしている。オイルショックが収束すれば——先物カーブはそれを示唆している——最初のミサイルが発射される前から存在していた構造的な追い風はそのまま残る。企業統治改革、金利正常化による銀行・生保のマージン拡大、過去最高の株主還元、そして修正余地のある海外機関投資家のアンダーウェイト。

追い風が予定通り届くか、遅れるか。その答えは日銀だけでなく、ベッセントにもかかっている。


本記事は公開情報に基づく筆者個人の分析メモであり、投資助言ではない。

玉露